short | ナノ
「なまえ!今日が何の日か覚えてるか!」

と、放課後。西洋占星術科の教室を訪ねて、
彼女であるなまえに聞いてみれば酷く顔を歪めて

『…ぬい、うっさい。いま課題やってんだけど。邪魔すんならどっか行って。というかどっか行け』

酷い。うん、酷い。
今日は俺の誕生日のはずなのに。
甘くない彼女のなまえからもナイフのような言葉じゃなく、少しは甘い言葉を貰えるであろう日なのに。
少し離れた誉の席に大人しく座り、遠目に二人を眺める。

『誉ー、ここ教えてー』
「ああ、うん。ここはね…」

なんだこの俺と誉の差は。その笑顔を俺に見せろ。

『…あ!分かった!』
「…うん、そう正解」
『ありがとー!誉大好き!』

がんっ。鈍器に頭を殴られたような気がした。
地味にショックを受けていると、こっちに目を向けた誉は苦笑い。

「誉ー…つか、なまえのやろー…」
「くひひっ大ダメージ受けてるね、一樹」
「…これがダメージ受けずにいられるかっての」

声だけで分かった。桜士郎だ。
コトリと横に何かが置かれた。
目を向けると、メジャーなメーカーのコーヒー(無糖開封済み)。

「おま…、飲んでないだろうな…」
「親切心で開けただけだよーん。それ、俺からの誕生日プレゼントだから」

怪しいな…。ていうか安いな。

「あー…まあ有り難く頂くことにする」

ごくごく飲み干した。と、同時に急激な眠気に襲われる。

「っ、…!?」
「一樹、おやすみーん」

…え、ちょっと待て。まさかとは思うが。

切れ切れになりそうな意識の中で桜士郎が「くひひっ、即効性って凄いんだねえ」とかなんとか。
親友に、薬盛られたとか。

口を開こうと思った瞬間に、俺の意識は途切れた。


「…い、しらぬい!不知火!」
「ぅ、…」

目を開けば緋色。
あれ、朝か。と思ったら陽日先生だった。

「なにやってんだ?下校時刻はとっくに過ぎてんぞ」
「あー…色々ありまして」

はあ?と陽日先生が顔を歪めた。

もうすぐ誕生日が昨日と呼べる時間帯になりそうだ。
うわもう、帰んなきゃやばいな。

「すいません、今すぐ帰りま…」

かつん、と床になにか落ちた。
拾い上げると縦長の箱にリボンが巻いてある。

プレゼントなんかでよく見る巻き方のリボンにカードが挟まっていた。
表紙にはぬいへ。
開くと丸まっちいあいつと分かる字で、携帯のメールを見るべし。

ポケットに入れておいた携帯を手に取り受信ボックスを漁る。


from なまえ
sub おはよう

誕生日おめでとう。
もしかしたら昨日に
なってるかもしれないけど。
隣に置いてあるのはプレゼントです。
気に入ったら使って。

面と向かって言うのは
恥ずかしいのでメールで。

追伸
睡眠薬を発案したのは誉だから


「不知火ーどしたー?」
「いや、その…」

俺の彼女が可愛すぎて。
思わず言いかけたその一言を飲み込みなんでもない、と誤魔化した。

「すいません、そんじゃ俺は帰ります」

プレゼントを傍らに抱え、教室を出た。

帰ったら直ぐに電話をしなければ。
なまえはきっと、眠いと怒るのだろうけど。

鞭と多量の糖分と
(…眠い、)(わりぃな。プレゼントありがとう。…なまえ、好きだ)(…ん、)



◎不知火はぴばーん
1日遅れたけどそこはキニシナイ('◇')