short | ナノ
好きだ。好きだ。愛してる。

手を繋ぐだけじゃ、抱き締めるだけじゃこの思いは満たされない。満たされるはずもない。

キスとかしたいし、もちろんそれ以上のことだって。

だけど、求めすぎて嫌われたらどうしよう。
そんな恐怖が欲求とセットで着いてくるので、
行動に移せたことは一度もない。
(ぶっちゃけキスは付き合い始めに1回きりだ)


ようはつまり、…俺が小心者なだけです。


『…ぱい!錫也先輩!』
「…、あ」

至近距離になまえの顔。

『眉間にすっごい皺寄ってましたよ!宮地先輩ぐらい』

宮地くんレベルとは相当だ。

『なにか考え事ですか?』
「あー、うんまあ…そんなとこ…」
『なに考えてたんですか?』

言いかけて、はっと気付く。
お前とどうやったらキスとか出来るかななんて考えてました。

完璧に引かれるパターンだ。

「なんでもないよ」

そう笑って誤魔化した。
でも、こいつに笑って誤魔化す方法は通じない。
いつも果てしなく鈍感のクセにこういうとこは鋭いんだからなんだかなあ…。

『…なんか、あったら言ってくださいね』

笑ってたが少しだけしょんぼりしてしまったなまえ。
(気のせいか。兎の垂れた耳が見える)

ごめんな。俺が悪いんだ。お前は悪くないよ。


「…月子、相談があるんだけど」
「えっ?わ、私で良いの?」

女の子のことは女の子に。
というわけで、月子に相談してみた。

「…月子はさ、自分の彼氏が月子にキスしたいって思ってたら嫌だとか思う?」
「えっ…と、それは…なまえちゃんに言われたの?」
「違うんだけど…、求めすぎて嫌われたら怖いんだ」

ああ、やっぱりどうしようもなく俺はビビりでチキンだ。
月子はうーん…と唸って、

「なまえちゃんはそんなこと思ってないよ?
実はね、」

月子が微笑みながら、ポケットから携帯を取り出してカチカチと操作して
俺に携帯を差し出した。

「なまえちゃんに相談されてたんだよ?」

携帯の画面はメールの受信ボックスだった。


from なまえちゃん
sub 無題

錫也先輩が、
何もしてくれないんです

私、嫌われたんですかね


いつもはちょこちょこ入る絵文字が一切なかった。
どれだけ不安だったのだろうか、なまえは。

「っ…」
「ね?言わないと伝わんないんだよ。
ほら、こんなとこで喋ってる場合じゃないよ。
羊くんと哉太がなまえちゃん屋上庭園に連れ出してるから行かなきゃ」

ああ、もう…3人とも分かってるなあ…。
3人に感謝しつつ、屋上庭園に走った。


「なまえ!」
『あ、錫也先輩。哉太先輩と羊先輩知りません?
二人とも呼び出んっ』

腕を引っ張って抱き寄せた。

「…ごめんな、不安に、させたよな…」
『錫也先輩…?どうしました…?』

弱々しい声で謝るとなまえは俺の背中に手を回してぽんぽんっとリズムよく叩いた。

「好きだよ、ちゃんと好きだ。
ただ手を出して嫌われるのが怖かったんだ…」
『ぅ、え?』
「月子に教えてもらった、ごめん不安にさせて」

謝ったら済む話でもないけど、謝るしか俺にはできない。

『………錫也先輩、私のこと好き?』
「好きだよ、大好きだ、愛してる」

掠れる声で、精一杯思いの丈を伝える。
どうか、どうか伝わりますようにと願いを込めて。

『私も好きです、大好きです、愛してます。
だから手出してくれないと悲しいです』
「…うん、」

なんていう大胆なお誘いだ。
シリアスっぽい雰囲気にも関わらず吹き出しそうだ。

「キス、して良いか」
『…駄目じゃないです』

ぎゅうっ、と俺の袖を掴むなまえが異常なくらい可愛すぎる。

ちゅっ、となまえの唇へキスを落とした。


『ちょっ、錫也先輩…っ!』
「んーなに?」
『なにしようと、っして!』

なにって…、
背中から反らし俺から遠ざかるなまえ。
腰と頭を掴んで再度引き寄せる。

「キスしようと思っただけだよ」
『だからって…っ
教室でしなくたっていいじゃないですか!』

ああっ、クラスの皆の視線が痛いっ!
顔を押さえて叫ぶなまえ。可愛い。

「だって、好きなんだから仕方ないだろ?」
『限度ってもんが…っ!』
「隙あり」

顔を押さえていた手が退いた瞬間に自分の唇を置いた。

『っ、!』
「ははっ、可愛いなあお前は」


from なまえちゃん
sub 無題

錫也先輩がキス魔に
なっちゃったんですけど
どうすれば良いですか

愛してる、だけじゃ到底足りない
(言葉を尽くしても)(まだまだ伝えたりない)



◎杏さんキリリク
『一番だけヒロインと錫也』でしたー

なんっちゅーか…うんバカップル^p^
錫也の溺愛っぷりは半端ないと思います
その愛で俺を愛でてくれ!
嘘ですごめんなさい


2011.04.21 望