short | ナノ
月子と哉太と羊と俺。お決まりのメンバーで天体観測をしていると、ポケットに入れた携帯が電話を知らせた。

ディスプレイを見ると"なまえ"だった。

ただ一人。唯一別の学校に行ってしまった幼馴染。久しぶりの電話だ。
少し嬉しくなって(だって哉太じゃなくて俺に電話)通話ボタンを押し耳に当てた。

「もしもし?」
『錫也?なまえだけど、今どこに居るの?』
「今?いま、星月学園の屋上庭園に居るよ。どうして?」

分かったすぐ行く、そう短い一言が聞こえて電話が切れた。
なにこの短い会話。ちょっと素っ気無さすぎだ、お前は。

っていうか、
今行く、となまえは確かに言った。

今行く。え、来るの?今時間12時近いんだけど…、

まさか、と頭で否定しつつももう一つの回答がどうしても頭をちらつく。
あいつは月子とは違って超アクティブ。やると言ったらやるような…今更ながら恐ろしい奴だ。

ちょっと待て。今行くって、

がちゃっ、と屋上庭園の扉が開いた。俺含め4人が振り向くと

『…来ちゃった』
「「………なまえ!?」」
「…ほんとに、来た、よ」
「………誰?」

ほんとに来たよ。確か家から5kmぐらいあるんだけどなあ。

ていうか、部屋着(しかもホットパンツ)にカーティガンを羽織っただけという馬鹿じゃないのと突っ込みたくなるような格好でなまえは居た。

「お前は、ほんとに馬鹿なんじゃないか!?来るなら来るでもっと温かそうな格好して来い!」
『ごめん、ね』

駆け寄って俺の着ていたパーカーをなまえに着せる。月子と哉太はまだ呆けている。

むき出しの手を俺の両手で挟むとこれでもか、というぐらいに冷たくなっていた。

「お前、もしかして歩いて来たのか!?」
『…えへ、』
「はあ…、ほんとお前は心配させて…」

両手で挟んでもたいした効果が出そうになかったので首と顎の間になまえの手を挟んだ。

『す、錫也!』
「うるさい。お前がいけないんだろ」

黙って温められてろ、そう言うとしゅんとおとなしくなった。


「で、どうして来たの?」
『あーちょっと、話したい事がありまして、』

月子との久しぶりの再会にはしゃぎ、羊への紹介もしてやっと本題へ。

「…何かあった?」

月子が心配そうになまえの顔を覗きこんだ。
哉太も月子の後ろでなまえを心配そうに眺めている。

『………ごめん、錫也にしか、話したくない』
「「え」」
『2人ともごめん、ほんとごめん』
「…じゃあなまえ行くよ。三人共、天体観測続けてもいいけど風邪ひかないようにな」

振り返ると、月子を哉太が支えるような形で俺らを見送っていた。
月子はあからさまに元気がなかった。

まあ、2人は親友だから、自分に話してくれないのがショックだったんだろう。
なまえは後ろを振り向きはしなかった。



「で、何の話ですか?」

なまえに温かいココアを出し、布団にくるめやっと話に本腰を入れられる。

『………あのさ、あたしが行ってる高校ってさ中学ん時の同級生多いじゃん』
「ああ、」
『丁度さ、お昼ごはんの時に一緒の中学の奴が集まってね話してたんだけど』


そういえばさー夜久さんって星月学園に行ったんだっけ?

誰かがそう言った。そしてそこから月子の話題になった。

星月学園って男子ばっかなんでしょ?何でそんなとこ行ったのかなあ?
そりゃあ、あれでしょ。夜久さん可愛かったしモテたかったんじゃないの?

お弁当を落しそうになった。何言ってんだコイツ、と思った。

ああー!ね!そういえば幼馴染の東月君とか七海君とかねいっつも守られてたよねー
調子こいてんなっつってね!あんたどっかのお姫様ー?って感じだったわー
あれ?でも東月君と七海君も星月学園じゃなかったっけ?
あーそういえば…。一緒に来てー、って言ったんじゃないの

ガタリ、と勢い良く立ってしまった。皆の視線がこちらに向く。

ごめん、ちょっと購買行ってくるね。飲み物買って来る
なんでさっきパン買った時に買わなかったの
忘れてた
ばっかだー!!行ってらっしゃい

何でも良かった。―――逃げる口実がほしかった。


『…否定できなかったの。違う、って言えなかったの。月子は星が好きで、錫也達も星が好きだから星月学園に行ったの、って言えなかったの』

そう言うなまえは俯いていて表情は読めない。
なまえに手を伸ばそうとしたらなまえが手に気付いて布団をバサッと頭から被った。

『結局自分が一番可愛かったんだ、あたし。友達の中で省かれるのが怖くって自分を守った。
最悪だ、最低だ。月子や哉太が聞いたらあたしの事嫌いになる』

布団の中からする声は震えていて、

『月子のこと、大事なのに…それ以上に自分が大事なんだ。
最低だ、もう…こんな自分嫌いだ…っ』
「だってさ、月子」
『………へ、』

なまえ出て来い、と言うと頭だけ出した。
俺が手に持っているものは携帯。

「ごめん、月子聞いてるから」
『え、なんで、どういう…』
「携帯、通話中です。お前があそこまで頑なに月子と哉太に話したがらないって事は月子関連かなーと思って」

なまえが目を丸くして俺と俺の携帯を交互に見た。
はい、と渡すとなまえは恐る恐る携帯を耳に当てた。

『つ、月子、…ごめん、ね…。……、ん、はい…』

うん、だとかはあ、だとか曖昧な返事を続けるなまえ。
おそらく電話の向こうでは月子が怒っているだろう。


数分後、なまえは笑顔で月子と話をしていた。和解は済んだようなので、いい加減俺の話を聞いてもらわなくちゃ、ね?

『あ…錫也?』
「もしもし月子?」
「えっ?なんで錫也っ?」
「こっちで話があるから切るな?もう話は終わっただろう?」

月子の返事を聞かずに電話を切り、念のために電源も切った。邪魔をされたら堪らない。

『す、錫也?』
「今度は、俺の話を聞いてもらう番な」

顔面には笑顔を貼り付けてそう言った。


お前の話の次は俺の話
(す、錫也…?なんか、怖い、)(さあ?気のせいじゃないか?)(絶対気のせいじゃない…!)


魔王錫也発動 次回に続く(笑)^▽^
続→来ちゃった