short | ナノ
なまえ先輩が好きだ。だけれど先輩は気付く様子がサラサラない。
いやむしろ、
最強に鈍感だ。

「みょうじ。付き合って欲しいんだけど」
『え?あー、錫也と颯斗くんにお出かけ禁止されてるからごめんね』

と、何とも的外れな回答を決死の告白をした男子にプレゼントしていた。
うわあ、と影で見ていて思った。

じゃあね、と手を振ってひらりと先輩が消えたあとには唖然とした告白した先輩が残っていた。
ご愁傷様、と心の中で手を合わせた。



狙って天然じゃないのか、と最初疑いをかけた僕。
どうやら究極の天然で鈍感娘のようだったらしい。

そのくせ先輩の弓の色は

『…』
「、」

綺麗で、力強い。
そんな先輩に的ではなく僕が射抜かれたようだ。

ギャップは最強だ、と確信した。

今日もいつもと同じ型で弓を引く先輩。的にさくっと気持ちいいくらいに弓が刺さる。

『よし、』

小さな声で呟いていた。
弓を引くときはかっこいいなのに、終わったあとの笑顔はとても可愛い。

「なまえ先輩。今日も綺麗な弓ですね」
『ぅあ…っ!あ、梓くん!びっくりしたあ…』
「そんなに吃驚しないでくださいよ。まるで人が幽霊みたいに…」

そう言って頬を膨らますとごめんね、と焦ったように謝ってくる先輩。
そんな姿が可愛くて思わず吹き出す。
怒ってないですよ、というと良かったあ、と息をはいた。

『で、でも梓くんとか月子ちゃんとか宮地くんの方が綺麗だよ?』
「僕は先輩の弓が一番好きです」
『あ、ありがとう…』

照れたように笑う。

『あ、梓くんも弓引けば?』
「僕は先輩の弓が見てたいです」
「こら木ノ瀬!みょうじの邪魔をするな!!」

宮地先輩の怒声が弓道場に響く。
怒られちゃいました、となまえ先輩に言うと先輩は困ったように笑った。

「じゃあ僕は戻ります。頑張ってくださいね」
『頑張るけど…私、梓くんの弓がみたいなあ』

そんな事を言われたら見せざるをえないじゃないか。
ずるい先輩だ。

「じゃあ、見ててくださいね」
『うん』

そう言って下がる先輩。僕は先輩の立っていた場所に立って弓を引いた。
弓は真ん中に。先輩が見ているのだからミスするわけがない。

『ぅ、わあ…っやっぱり梓くんの弓は綺麗だね!』
「そう、ですか?…ありがとうございます」

きらきらした瞳で僕がさした的を見る。
その瞳を僕に向けてくれれば良いのにな。

『梓くんみたいに引けたらいいのに』
「ええっ!?僕は、先輩の弓が好きだから真似なんてしないでください!」

本気で焦った。やめてください、本当に。

『そ、そんなに焦ること?』
「焦りますよ!」
『えっと、ごめんね?』
「ほんとにお願いしますからやめてくださいよ!」

念のためにもう一度釘をさす。分かったよ、と先輩は笑った。

ああそれにしても先輩が僕のものにならないかな。


ああ、そうか。僕のことを意識させればいいのか。

「先輩。なまえ先輩」
『あ、なあに?』
「僕は先輩の弓が好きです」

そういうと照れながらありがとうと言った。
まだ続くから。これからが本番だからちゃんと聞いていて先輩。

「でももっと先輩のことが好きです。
だから先輩が僕を好きになるようにしてみせますから」
『…ほえ?』
「意味、分かりますよね?」

犯行声明
君の心を奪ってみせる
(へ?え?…え、え?)(先輩、覚悟しておいてください)(ぅえ、あ…はい?)