short | ナノ
『羊、ご飯できたよ』

キッチンから出てくると、いつも居るはずの羊がテーブルについていない。
リビングに顔を向けると羊はそこに居た。規則的な寝息をたてて。
エプロンを脱いでその前に行く。

「すー…」

わあ、なまえがなんか僕のことじっと見てる。
ご飯も食べたいんだけどちょっと待ってみようかな。
どういう行動をするのか凄い気になるから。
それにしてもなまえってば可愛いなあ。

『…、』

大きく首の開いた服から覗く首。
細い体と綺麗な顔を繋ぐ白くて細い首。
なぜかかぷりと噛み付きたくなった。
いや別に殺人衝動とかないけど、ていうか羊死んだら私も死んじゃうよ。

「、」

一体何するんだろう、この子。
小さく目を開けた先にはなまえが。
なぜかなまえは僕の顔、それともそれ周辺をじーっと見ている。
え、なにかついてるのかな?それはいけない様な気がする。
でもここで起きるのもなんだか勿体無い気がする。
起きるか起きないか、葛藤しているとなまえが僕の方へ顔を寄せてきた。
え、なあに?キスでもしてくれるの?
そんな期待は一瞬にして消える事となる。

『(かぷっ)』
「っ、ぃ…」

かぷりと噛み付くと、羊は無意識にか声をあげた。
あれ、起きちゃったかも。

「っ…」

まさか噛み付かれるとは。まさかのなまえって肉食?いや雑食でしょ。
ぱちりと目を開けると、なまえはいつも通りの顔でこっちを眺めている。

『起きた?』

寝ていたせいか寝癖がついていた。寝癖をなおすために手を伸ばす。
あー、少し赤くなってる。
なんて呑気に噛み付いた部分を眺めていると羊がこう言った。

「僕だけ食べられるなんて、不公平じゃない?」

君の伸ばしてきた手を引っ掴んでぱくりと口の中に放り込んで
かぷりと歯をたてた。

羊in狼
(…指は美味しくないよ?)(僕の首だって美味しくないでしょ)(起きてたんなら起きればいいのに)