short | ナノ
『一樹の人殺し!』
「え、は!?」

朝からなんて物騒なことを。しかも開口一番がそれなんてやめて欲しい。
普通は彼女からおはようって言われたい。

大体俺は人を殺した事なんてない。
(あ、なまえに手ぇ出そうとした奴は想像の中で潰してやろうかな、なんて考えた事はあるけれど)

しかも教室でそんなこと言わないでくれよ。
このいたたまれない空気を俺はどう消していけば良いんだ。

『一樹のばかー!』
「…おい、ちょっと行くぞ」

手を引っ張ると離されそうだったからひょい、と俵担ぎをして教室を出た。
教室を出るときも俺への何ともいえない視線が刺さっていた。
ああ、居た堪れないってまさにこのこと。

はあ、とため息をきながら上の暴れる彼女を運んだ。


「で、どーいう事か説明してくれるか?」

地面に降ろして、ぎゅうと抱きしめる。
腕のなかでも暴れる彼女はどうやったら静かになってくれる?
俺はその術を知っていたりする。

「…なまえ」

耳元でなまえの名前を囁くと、びくりと体を固めて顔を真っ赤にする。

『っ、一樹の、人殺しっ!』
「いやだから…どうしてそうなのかと聞いてるんだが」
『…私、一樹のせいで死んじゃうよ…』

いや、まだ死んでない。
じゃあ俺が抱きしめているお前はなんだよ?幽霊かなんかか?

『だ、だって…星月先生に「一樹と居ると心臓がばくばくし過ぎて死んじゃいそう」って言ったら
人間の心拍数って一生で15〜23億なんだって星月先生が言うから…』
「…ほう、なるほど」

お前はそんなこっぱずかしい相談をしたんだな。俺は正直、今星月先生と顔をあわせづらい。

『だから、絶対…一樹のせいで死んじゃうもん』

むぅ、と膨れたように頬を膨らませる愛らしい姿に、

「、」

おいおい、これは、もう。
何されても文句はなしだろう。

考える暇なんてない。
お前が欲しい。その思いだけで彼女の唇と自分のそれを重ねた。

唇を離して、なまえの顔を見つめると

『っ〜…見られただけでも心臓爆発しそう…』
「あー…もうお前は…」
『え』

手を狐型にして、おでこを狙い撃ち。

『い、いたっ!』

でこぴんされたなまえはおでこを押さえて涙目で反論。

『な、なにするの!』
「それはこっちの台詞だ」

俺だって、
心拍数急上昇
(だ、っ…一樹意味分かんない)(分からなくて結構だ)(な…っバカにして!)


◎おまけ

「…一樹会長、人殺しでも俺は会長を尊敬しています」
「な、七海?」
「だから、…模範囚になって早く出てきてくださいね…!」
「ちょ、お前なにか誤解して…!!」

誤解される不知火。
ちゃんと誤解は解けるはず。