short | ナノ
『錫也の馬鹿アホ!大嫌い!!』
「ちょ…っ、なまえ!?」

勢い良く椅子から立ったなまえの手を掴もうとした俺の右手は空しく空気を掴んだ。
椅子がガタンと音を立て床にぶつかった。

なまえの俺への怒声は盛大に教室に響き渡ったり
シーン、となった教室からなまえは扉を荒々しくぶち開け走って教室を出ていった。
俺は開いたままの扉を立ったまま見つめていた。

誰かが俺の肩を一度躊躇し意を決したかのように叩いた。
振り返ると冷や汗をかいた哉太だった。

「お、追いかけなくていいのか…?」
「あ、ああ…忘れてた…」
「大分怒ってたね…。錫也何したの?」

月子と喋っていた羊も俺に声をかけた。
羊の隣に居る月子は開いたままの扉をあわあわしながら見ていた。

クラス全体の雰囲気が俺を哀れむような雰囲気になっているのは何となく分かる。

「今、行っても余計に怒らせる気がするなぁ…」

苦笑いするしかない。
だからって追いかけないわけにもいかないのだが。

「錫也、お前何言ったんだ…?」
「ああ…、なんかなまえが俺が町で女の子と喋ってたのみてたらしくて、あいつは誰なんだと。
それで俺はそんな事気にしなくて良いよ、お前しか見えてないからと言おうとしたら…
お前しか…の所であの台詞によってたたっ切られた」
「あー…つまりなまえはそんな事気にしなくて良いよ、までしか聞いてないんだな?」
「そーいう事なんだろうなぁ…。あの怒り様は…」

開けっ放しの扉に目をやった。

「でも錫也が珍しいね、なまえを追いかけないなんて」
「あー…ちょっとあまりにも"大嫌い"の衝撃が半端なくって…ね、」

大嫌い、はちょっとっていうか結構キた。うん。
好きで好きで仕方ない人からの"大嫌い"の破壊力は強大過ぎて俺の思考を一瞬にして奪った。
…ああもう、ちくしょう俺のバカ。なんであんな言い方したんだ。くそ、

そんな事考えてると開いたままの扉に人影が。
なまえかと思い期待を馳せると宮地だった。

「む…なんだ、その顔は」

どうやら顔に出ていたらしい。常に仏頂面の宮地の眉間に皺が寄せられた。

「ああ、ごめんなんでもない。どうしたんだ?」
「いや、夜久に弓道部のミーティングがある事を言ってなくてな」

そう言って月子を呼んだ。
宮地の用事は短く、直ぐに教室を出て行こうとした。
そして去り際に宮地は俺らに振り返り俺にとっての爆弾を一つ落とした。

「そういえばさっきみょうじとすれ違ったのだが『会長と浮気してやるー』とかなんとか…うおっ!」

気付いたら宮地を押しのけ生徒会室に走り出していた。
ああもうお前は、ほんと人騒がせなやつだ。
ほんと、そういうの心臓に悪いからやめて欲しい。
もし、ほんとに万が一そんな事があったら俺は不知火会長を潰してしまうよ?


生徒会室の扉をノックもなしに開ける。

「不知火会長!なまえ来てませんか?!」
「おー東月。来てるぞ。おい隠れても無駄だっつの、ちょ、そこ馬鹿やめろ!
おいお前、ちょ変なの触んな!爆発すんぞ!!頼むから颯斗に怒られるからやめろおおおお!!!!
おい東月!さっさとコイツどっかやってくれ!!」

何をやってるのかさっぱり分からないが、会長のに呼ばれたし生徒会室に入ると
何故かホントに何故か天羽君の実験室に入ろうとしていた。
なんでお前は爆発する恐れのある部屋に進んで隠れようとするかなぁ。

「す、ずや…」

上目遣いに恐る恐る俺を伺う。上目遣いに恐る恐る伺うという事は俺が怒っているという自覚があるらしい。

「さ、帰ろうか?…会長、お騒がせしましたー」

なまえの首根っこを掴んで生徒会室から引っ張り出した。
いやーっ!錫也怖いーっ!!とぐだぐだ言ってるなまえは無視した。


「で、分かった?人の話はちゃんと最後まで聞こうね?」
『…はい、すいません』

俺は仁王立ちでなまえは俺の前で正座のお説教。周りには哉太と羊と月子。
なまえは目で助けてと訴えている。しかし3人は動かない。
当たり前じゃないか。俺がそんなの許すと思ってるの?


いい加減可哀想になってきたので、いい加減終わりにする事にする。
羊達はすでに自分の部屋に帰っていた。

『すいませんでした』
「分かったらよろしい。あとね俺がなまえ以外好きになるわけないだろ」

おいで、というと足が痺れたみたいで動かない。
仕方ないから手を引っ張って抱き寄せる。

「今度からちゃんと覚えておいてね」
『…錫也だってヤキモチ妬くくせに』
「男と女の絶対数が違うんだから仕方ないだろ」
『…あたし、錫也しか見えてないのに』

…ああもう、怒ってたんだけどな。



今日も今日とて、君に甘く
(お前はホント…可愛いなあ)(月子の方が可愛いよ?)(…いい加減、自覚してくれないかなあ)


大嫌いとか言われたら固まりそうな人1.不知火 2.錫也 3.誰だろう…陽日先生かな?