『こったせーんせー!』 「ぅ、お…っ!?」 助走をつけてびょーんと飛びつくと間抜けな声をあげる。 時々見せるそんなところが可愛かったりする。 「お前…危ないじゃないか」 『えへ』 危ないと言いつつもちゃんと抱きとめてくれる先生に頬を摺り寄せる。 廊下で飛びつきいちゃつき真っ只中。 どうせ入学当初からこんなんだったから別に誰も不審に思ってないもーん。 なんて、開き直ってみてみるものの先生はちゃんと仕事とプライベートは分けているらしい。 私をさりへげなく離し、お説教スタート。 「お前は…廊下は走るなって直獅に言われてるだろ?」 『直ちゃん居ないから大丈夫!』 「…そうか、保健室来るか?」 『ん、はい!』 こた先生はしゃっとカーテンを閉めて私をベッドの上に座らせ自分も隣に座る。 「お前は、学校ではちゃんとしなさいって言ってるだろうが」 『えへへ、こた先生見たら飛びつきたくなって』 まったく…、と言いながら口元は笑っている。 嬉しいんだか私が面白いんだか。 きっとその両方だ。いや両方だと私が嬉しいだけですすいません。 「頼むから、やめなさい。分かった?」 『えーなんで? こた先生は私に飛びつかれるの嫌いですか?』 そう言うとこた先生は困ったように顔をゆがめ、私から顔を逸らす。 「あー…」とかなんとか唸っている。 え、ちょっとそこは否定してくれないと傷付きますよ、流石に。 若干目じりに涙が浮かんできたようだ。 『嫌ならもうしませんよ』 「嫌、じゃないが…」 が、なんですか。 こた先生の顔を下から覗き込む。 「っ、」 『こたせ、』 とん、と肩を押されてベッドに埋まる。 私の頭はついていかないまま、こた先生にされるがまま。 頭の横に右手を置かれ、唇にとん、と置くようににキスされる。 「…生徒の前でこういう事しそうになるから、やめてくれ」 私の顎に手を添えたまま、そう呟いた。 『ふ、2人っきりならいいんですか』 「そりゃ構わんが…これ以上もするかもしれないぞ」 瞬時に真っ赤になった私をくくっ、と悪戯に笑う。あ、からかった! 『し、ちゃうんですか』 「そりゃまあ。俺は先生の前に男だしな。 好きな奴にそういう事されたら色々吹っ飛ぶぞ」 だからやめろよ?と釘を刺すように言って、私の体を起こす。 『むー…卒業したら良いですか?』 「卒業できたら、な?」 何故だ、バカにされている!これでも一応勉強してるんだぞ! 「ほら、そろそろ授業始まるぞ」 『…行きたくないでーす』 「直獅が俺を怒りにくるからやめてくれ」 机のものをあさりながら背中越しに私にそう言った。 私はその背中にかけより、 先生なんて困ればいい。 こた先生の顔を両手で挟んで強引にこっちに向け 頑張って背伸びをして、唇めがけてキスを落とした。 『また放課後来ますね!』 やり逃げ。保健室から逃走。 たまには困ればいい、ドキドキとかして。 「まったく…困った奴だ」 笑いながら保健室で虎太郎が呟いたのをなまえは知らない。 ―――狙うんならちゃんと狙えよ。 唇の端を人差し指でなぞりながら虎太郎は思った。 キスの場所さえも知らないとは困った ◎おまけ 『こーたせんせー!』 「おお、待ってたぞ。ちょっとこっち来い」 『え、先生なんか顔が怪しいというか、え…んぅ』 「…キスすんのはここだ、覚えとけ」 『え、え、ええええ!!?』 みたいな。 ←→ |