short | ナノ
俺の彼女は可愛い。

我ながらアホだとは思うが
しかし可愛いくて目に入れても痛くないんだから仕方がない。

俺も重症だなあ、とか思うことはあっても、治せないんだから仕方がない。
恋の病に薬なしとは、よくまあ当てはまってるとは思う。

ま、治したいとも思ってないんだけど。

『すーずーやー!恥ずかしいよー!』
「階段から落ちるお前が悪い」

ばたばたと暴れるから俺の腕の拘束を少しだけ強めてみる。

今さっき。
なまえは階段の一番上から下まで真っ逆さまに落ちていった。
心臓止まるかと思った。

幸い階段の下に不知火会長含む生徒会の人が居て
しかもマットを皆で手分けして運んでいたわけだからマットの上に落ちた。

しかしその後が問題だ。
ずるり、とマットから滑り落ち階段の角で足を打ち、捻ったんだかよく分からないがとりあえず腫れた。

お前はホント運が強いんだか弱いんだか。

『錫也ー!一人で歩けるから!』
「だーめ。悪化させたらどうするの。黙って俺に運ばれてなさい」
『だから恥ずかしいってば!』
「お姫様抱っこと俺に口塞がれるのどっちがいい?」

にこり、と最上級の笑顔を顔に貼り付けてなまえに問う。
もちろん口を塞ぐ手段としては、一つしかないんだけどね?

『ばか!どっちも嫌だああ!』
「そう、だったら俺に黙って運ばれてなさい」
『うー…』

観念して俺の腕のなかで騒ぐのをやめた。
最初っからそうしてれば良かったのに、そう言うとうるさいとそっぽを向いた。


「…やっぱり、星月先生は居ないね」
『…うんまあ、そこがあの先生のキャラでしょうよ』

ベッドに近づきなまえを降ろす。

「はい、靴下脱いでー」
『え、錫也やるの?』
「だって誰も居ないんだから仕方ないだろ?待ってる間に悪化したら嫌だし」

そう言って、薬品棚から冷却スプレーと湿布をさがしてなまえの前にしゃがむ。

「ほら、早く脱がないと俺が脱がせるよ」
『うわあああごめんごめん自分で脱ぎますスイマセン!』
「よろしい」

おずおずと黒い靴下を脱ぐ。その下から覗かせたのは少しだけ赤くはれ上がった足首。
ああもう、ホント自分が傷付く事には鈍感なんだから。

「痛い?」
『ちょっとは痛い、よ』

痛々しく赤くなった足首。
俺はその腫れあがった患部に顔を寄せた。

『え、すず、』

ちゅっ、とリップ音を響かせて顔を離す。
見上げると真っ赤になったなまえの顔。

『な、な な何してんの!』
「何って…痛くなくなるおまじない。…もう痛くないだろ?」
『や、あの恥ずかしさでそれ所じゃありません…っ』

両手で顔を押さえる。
何で隠しちゃうんだよ。もっと見てたいのに。

ぎしり、と俺がベッドに片足を乗せる音になまえが顔を覆った指の隙間からこっちを覗いた。
気付いたときには既に遅し。俺はなまえの両手を掴み、そのまま後ろへ押し倒した。

『え、ちょ、錫也!?』
「なあ、キスしていいか?」
『………ば、ばか!こんなとこですることじゃなんぅ、』

バカはお前だ。
両手を押さえつけて上に跨った状態で、拒否権なんてあるわけないだろ?

『っ、は…ば ば、ばかっ』
「はは、可愛い可愛い」

真っ赤になった顔は極上に可愛い。殺傷能力ばつぐんだ。

上から退き、冷却スプレーを患部にふっかける。

『つめたっ』
「だって冷却スプレーだから」
『うー…』
「ヤだったら、今度は怪我しないように気をつけてね」

そう言っておでこにキスを落す。
顔を離すと真っ赤な顔と涙目でこっちを見ていた。

『す、錫也と居ると心臓がもたない…』
「俺はお前と居ると楽しいよ。さ、そろそろ行こうか、皆が心配してるよ。俺のお姫様」
『お、お姫様なんかじゃないやい!』

またまた、そんな事言っちゃって。

世界で一番おひめさま!
(哉太、早く行きなよ)(俺は命が惜しい!)(僕だって!)((邪魔された時の錫也の怒りようと言ったら))

―――
このあと哉太と羊は保健室から出てきた2人に見つかる。