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欲張りなSlight fever



前から知っていた。
生徒会室で一樹と桜士朗が喋っていたから。

一樹が月子を好きなことを。
月子が一樹の大切な子だっていう事を。

ああ、そうかと納得した。
一樹が月子を見る目は、見たことない優しい目だったから。

一樹を好きなことが悲しいだけに変わった瞬間だった。


『だから諦めよう、って思ってるんだけどねー…』
「…だったら諦めなくったって良いんじゃない?」

誉はそういうけどさあ。

『月子と勝負して一樹を奪えると思ってんの?誉』

はっと嘲笑がもれる。それは私に向けての笑いである。

「…それは、なまえ次第じゃない?」
『だから、私が月子に勝ってるとこなんてないでしょーが。
だからまああの2人がうまくいけばいいじゃん。そしたら私も諦めれるし一樹も月子も結ばれて万々歳ってね!』

ああ、これが一番良いエンディングじゃんか。
そうだよ、これで終わってくれればいいのに、

「そうしたら、なまえの想いはどこに行くの?」

この同級生は痛いところを突いてくる。

『…さあ』

体内消化とか?というと誉ははあとため息をついた。

『なに、』
「いや?なまえは馬鹿だなあって」
『…馬鹿なのは一樹だよ』
「誰が馬鹿だって?」

後ろからこつんと殴られた。

「人が居ないとこで陰口叩くなよな」
『…』

…居たのか。

ええそりゃ月子は叩かないでしょうね。
どうせ私は月子とは違う。

月子に悪いところは一個もないのについつい卑屈に走ってしまう。
ごめんね、月子。悪いのは全部私だから。

「大体何の話してたんだよ」
『…一樹には関係ないよ』

私は借りていた桜士朗の席を立って廊下へ向かった。
…ていうか何であんたは西洋占星術の教室に来たのさ。

あー…頭痛い。少しの頭痛を感じながら、私は自分の教室へ向かった。


…どうしよう、本当に頭が痛い。しかも体もだるいときた。
熱、出したかな。

西洋占星術科から神話科までの教室は結構遠い。
あー…倒れたらどうしよう。

壁に寄りかかりながら歩いていたとき、
窓の外に月子が見えた。

『(月子だ、相変わらず可愛いなあ…)』

少しだけその可愛さわけてくれないかな。なんて無理な事を思ってみる。
窓をあける。月子の名前を呼ぼうとした瞬間に。

「一樹会長!」
『、』


月子はそれはもう嬉しそうに一樹の名前を呼んだ。
月子は上を仰いでそう叫んでいた。顔の向きは西洋占星術科の教室の方。
きっと一樹がそこから顔を出しているんだろう。

…ああもうこれはなんだか間違いなく致命的。

その瞬間、物凄い睡魔に襲われて、ぐらりと足元が崩れて、視界が狭くなった。
壁に沿ってその場に座り込んでしまった。

『っ〜…』

あー熱だ。これはまさしく熱だ。ていうか気づけよ自分。

周りの男子が私のほうへ駆けてくる。

「おいみょうじ!?大丈夫か!?」
「みょうじ先輩!どうしたんですか!?」

だとか。もうそんなのは雑音のようにしか聞こえなくて。

ただ、ただ一人の声が朦朧とした頭にしっかり響いた。

「なまえ!おいなまえ!」

…なんで、お前が来るんだ。
人ごみの中から抜け出してきたのは不知火一樹で。
なぜか周りの男子に「俺が運ぶから心配ない」云々言っている。

「なまえ、立てるか?」
『いい…要らない、自分で立つ…』

要らないよ。
その差し出した手も、心配そうにした顔も、私を構う心も。

なんで私が諦めれないかしってるの?
一樹が期待させるようなことするからだよ。

「なんでだ。そんなフラフラで…」
『う、るさいな…っ』

うるさい。うるさいうるさいうるさい。
熱でショート寸前の脳みそは、どうやら冷静な判断が出せなかったらしい。

『私なんかに構わないでよ!
自分の好きな子だけに優しくしてればいいじゃん…っ!
月子がすきなんでしょ…!
期待させるようなことしないで!』

気付けば涙がでていて、一樹は目を丸くして驚いていた。
ああ、言ってしまった。はは馬鹿みたい。
でも言ってしまった事は戻らなくて、一樹の記憶からも消せなくて。

この時ほどタイムマシンが欲しいと思ったことはない。

『一人で歩けるから一樹は教室に戻れば…?』
「………ほら、行くぞ」

今度は私に拒否権はないとでもいうかのように抱き上げた。

『な…っ』
「そんなフラフラな体で一人で行かせる馬鹿なんて居ないだろ。ほら保健室行くぞ」
『人の話聞いてた…?』

なに、人の言語も分からなくなったの?
熱で抵抗なんてできなくて。
私は一樹のされるがままに抱き上げられて保健室に向かっている。

『ねえ、人の話聞いてたよね…?』
「聞いてたぞ」
『っ、だったら!』
「お前が言ったから俺は、いま好きな奴に優しくしているんだ」

「…はあ?」と思わず間抜けな声がでた。
私、頭おかしいのかな。それとも一樹がおかしいのかな。

『なに、言って』
「だから、俺は好きな奴…お前に優しくしてるんだって言ったんだ」
『…一樹の好きなのは、月子でしょ…?』
「それ、いつの話だよ?」

「俺が月子を好きだったのはだいぶ前だぞ?」と新事実発覚。
でも私にはそんなの信じられなくて、口から出てくるのは言い訳に使うような言葉ばかり。

『っ、でも、だって』
「信じられないか?…まったく仕方ない奴だな、お前は」

ため息付きでその台詞を言われ、体をゆっくり降ろされる。
正面に一樹が居るような形で向き合わされる。

何されるんだろう、と思ったときには一樹の顔が近づいてきて、
ふにゅっとした感触が唇に感じた。え、え。
そして混乱している間に視界は真っ暗に。頭上から一樹の声が聞こえた。

「好きじゃない奴にこんな事しないぞ、俺は」

その台詞で、やっと抱きしめられている事に気付き、キスされた事に気付いた。

『っ、ほん、と…っ?』
「本当だ。こんな事で嘘なんて付かないぞ」
『か、ずきの…っばか!』
「ば、馬鹿ってなんだお前は!」

ああ、頭がおかしい。もっとしてなんて。
そんな事思っていたのにするりと口から言葉が飛び出した。

『っ…もっともっと、キスして』

そう言うと、一樹は一瞬驚いて
「お前の仰せのままに」とかなんとか言ってまた私にキスをくれた。


キスして抱きしめて好きだと言って
(…ていうか、ここ廊下なんだよな)(っ、)(まー良いかあ…。虫除けだ虫除け)


◎おまけ

「37.2…微熱じゃないか」
『………なんか、ごめんなさい星月先生』
「まあ良いけどな…。そういやお前不知火と廊下でキスしたって聞いたが」
『………ノーコメントで、』
「(…したんだな)」

分かってもいわないところが大人




あとがき

蒼依さんリクエスト「不知火一樹の同級生で切甘」でした

あえて言わせてもらう
同級生感が皆無!^q^三^p^(←)
同級生の要素が多分呼び名ぐらいだった気がしない事もない!←
切甘になったか若干謎ですが…(大問題)

兎にも角にも
リクエストありがとうございました!^▽^


2011.03.01 望

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