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プリムラ



お風呂からあがって、リビングに向かうと錫也がソファの上で雑誌を読んでいた。
雑誌のタイトルは今日の晩御飯。思わず吹き出しかけた。

今日の晩御飯って…!
若干口角のあがった口元を手で隠して錫也を呼んだ。

『錫也ー、お風呂あがったよ』
「んー、…ってお前、髪の毛ちゃんと拭けって!風邪ひくぞ!」
『えー…自然乾燥派ー』

ぶっちゃけ面倒くさいだけ。
そうすると錫也は「ほら、座って」と若干怒ったように私を自分の隣へ座らせる。

首にかけていたタオルを私の髪にあてて、髪を軽く叩くように湿気をとっていく。

『がーってやっていいのに』
「そんな事したら、髪が痛むだろ?」
『痛んだって気にしないよ』

元より美容にそんなに関心はないのだ。
それなのにそう言ったって錫也の髪のふき方はまるで美容院だ。

「折角お前の髪は長くて綺麗なのにな」
『長いだけだよ。そろそろ邪魔だから切りたいなーって』
「まあ、切ってもお前が可愛いのには変わりはないけどな」

はい終わり、そう言ってタオルをどけた。

『錫也、お風呂は?』
「んー…ちょっとこれ読んじゃいたいから、もうちょっと後で入るよ」
『ふーん、そうなの?』

錫也は傍らに置いていた例の今日の晩御飯をとって、さっき開いてあったであろうページを開いた。
錫也の目をじーっと見ていると文字にあわせて目が上下する。

なんだか私はつまらなくなって錫也に寄りかかった。

『…』
「…なんだよ、今日は甘えたさんだな?」

錫也が意外そうにそう言った。本を読むんじゃなかったのか。

『錫也くんは今日の晩御飯を読んでれば良いよ。私に構わなくていいの』

あれ、何だろう。この言い方ってまるで、なんだか、

「………本に、嫉妬してるの?」
『なわけないでしょ』
「ふーん、じゃあいいけど」

あれ、いつもはもっと嬉しそうに笑って言うのに。
嬉しいな、だとかなんだとか。

『…』

テレビを点けるのはなんだか億劫で錫也の隣から動かないまま。
時折聞こえるページをめくる音。ああ、暇だし眠いし、
それに何より、なんだかつまらない。

『…錫也、』
「なに?」

錫也の声がいつもより冷たい。

『…やっぱいい』
「なんだよ、気になるだろ?」
『…だって、怒ってるでしょ』

流石にそれが分からないほど付き合いが浅いわけではない。

「あー、うん、まあ怒ってるよ」
『…もう寝る』
「待って、何かいう事あったんでしょ?」

言ってくれないと気になる、そう言って私を抱きしめた。

『………気にしなくて良いよ』
「なんだよ、だからなまえが気にしなくったって、俺が気にするんだってば」
『何でもないから』

うん、原因判明。
つまりだから、寂しかったんだ。錫也が構ってくれないから。

今日の晩御飯なんて本。
読まなくったって良いよ。錫也の料理は何でも美味しいんだから。
一度そう言ってみた事がある。

そうすると錫也は
お前が食べるのは全部俺が作るものが良いから、飽きられないようにな。
なんてとびきり甘いキス付きの返答が返ってきた。


結局のところ、錫也の行動は(自惚れかもしれないけど)全部私のためなのだ。


『…なーんでもない』
「まったく…お前は、」
『ふふ』

するりと錫也の背中に腕を回す。見た目に反して意外にちゃんとした体つき。
錫也、好き。

いつも口に出さない愛の言葉。今日も心の中で呟いてみる。

「なまえ、愛してるよ」

錫也は口に出して返事のように私にそう囁いた。
無言の愛でも伝わっている
(本に嫉妬なんて可愛いな)(してないってば)(ははっ、嘘吐くときの癖出てるぞ)




あとがき

ゆうさんリクエスト「錫也と結婚後ソファでいちゃいちゃ」でした^ω^

ちなみにタイトルのプリムラは花で花言葉が「無言の愛」なんです
プリムラの花結構可愛かったです。
ていうかこの花最近見たぞ…?というまさかの。

錫也が怒ってたのはわざとですわざと。
好きな子ほど虐めたいみたいな。分かりにくい!^p^←

ゆうさんリクエストありがとうございました!


2011.03.03 望

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