ヴーッ、と携帯が枕元でバイブ音を鳴らす。
布団から起き上がろうとすると寒さで身震いした。
『そろそろマフラー、出そっかなあ…』
クローゼットの奥深くに眠っているであろうマフラーを朝早くから探し始めた。時間はまだまだ余裕です。
チェックのマフラーを首に巻く。寮から出るといきなり風が吹いてきたので思わず身震いした。マフラー巻いてきて良かった、と心から思った。
そんな事思いながら歩いて5分。
『おはよう』
そう言うとにゃあ、と鳴き返してきて、私の足にすり寄る。
少し前に見つけた猫だ。どうやら懐かれたようで朝毎日寄るのが日課になっている。
抱きかかえると温かい。猫カイロだ。
そして抱きしめたまま座った。
『寒いね…』
ていうか、この子外に放っておいて大丈夫なんだろうか…。
首に巻いておいたマフラーを取り猫に巻きつける。
『…マシ、か?』
温かいのかよく分からないがとりあえず気休め程度にはなるだろう。
ふと腕時計を確認するとそろそろ教室に行かないと危険な時間帯になっていた。
猫を降ろし、玄関の方へ向かった。
「冬原さん、おはよう」
「ハルキちゃん、おはよう!」
「冬原、おーっす」
校門にさしかった辺りで幼馴染3人組と出くわした。3人共色違いのマフラーを巻いている。仲良すぎだ。
『おはようございます』
「冬原さん、寒くない?」
東月くんがそう声をかける。
それを皮切りに残りの2人も声をかけてきた。
「そうだよ、マフラー巻いてこなかったの?」
「お前、頬と指先赤いぞー」
「俺の貸してあげる」
そう言って東月くんが自分のマフラーを解こうとした。
『え、いいですよ。東月くん寒いでしょう?』
慌ててそれを辞退するけれど東月くんはお構いなしに私の首にマフラーを巻きつけた。
「俺より冬原さんのが大事だよ?風邪でも引いたら大変でしょ?」
『…私より、東月くんのが大事でしょう?』
「そうかな?俺はオカンだしね。大事にする方の立場だと思うよ」
そういう意味じゃないんだけど…東月くんは分かってないのか、それとも分かって敢えて無視してるかのどっちかだ。
「はい、出来た」
後ろできゅっ、と結ばれたマフラー。
『…すいません』
「こういう時はありがとうの方が嬉しいよ?」
『…ありがとう、ございます』
「いえいえ…っと、これなに?毛?」
そう言って腕のあたりから何かをつまむ。
東月くんの指先に挟まれていたものは、
…あ。薄い色素で少しだけ茶色の入り混じったその毛は朝会ってきた(多分)猫のもので。
「結構ついてるね、動物かな」
『多分、猫だと思いますよ』
「猫?うそ、このへん居たっけ?」
『この前、見つけたんですよ。懐かれたんですよね』
そう言いながら制服の毛を取る。
わあ、ホントにいっぱい毛がついてる。ぱんぱんっと払う。
「へえ、会いたいなーっ」
月子ちゃんが目を輝かせる。
『星座科の教室の下あたりに居ますよ』
「今日の昼休み行くか?」
「うんっ」
東月くんがそう言うと月子ちゃんは元気良く返事をする。
丁度玄関につき、別れようと声をかけようとしたとき。
「俺も行くからな。冬原はどうすんだ?」
『…は?』
「は?…って、行くんだろ?」
『え、や、私は…課題があるんで、』
「そうなの?残念だなー…」
『それじゃあ私はここで、』
星座科の教室に向かった。
誘われるなんて思ってなかった
嬉しいと感じたのはだれ
(…そんなわけない、)(そんなわけないよ、)
2012.02.03 修正・加筆