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五月蝿い
はぁはぁ、と肩で息をする。勢いあまって走ってきてしまったけれどああ私のバカ。
とりあえずで逃げ込んだのは人気の少ない所。木の陰に座り込む。

体育座りで頭を足の間に埋めていると近くでにゃあ、と聞こえた。
にゃ、にゃあ?

顔を上げると綺麗な縞々の猫が居た。
その猫は私を見て近寄ってきた。割に人懐っこいみたいだ。手を出すとその手にすりっ、と体をこすりつけてきた。

『…かわいーね』

にゃあ、と鳴く。それが肯定なのか否定なのかは分からないし言葉は分かっているのかさえ分からないけれど気分が下がっている今はそれで良い。

抱き上げ膝の上に置く。首のあたりを指でこしょぐるようにするとゴロゴロ、と聞こえた。



Side Ryunosuke

「む、」

隣の席のの冬原がこの時間に居ないなんて珍しい。もうすぐ1限目が始まるというのに。

白鳥に聞くとどうやら朝、食堂で不知火会長とひと悶着あったらしい。

「へえ、珍しいな」
「だろ?俺偶然その場に居たんだけどさ、食堂がすっげえ静かになってさー」
「ああ、そうだな…何かあったんだろうな」
「さあなー。あーでも不知火会長冬原さんと良いカンジだったのかなーあああ羨ましい!!」

そう言って白鳥は自分の席に戻って行った。
あの冬原がな、そう思いながら窓の外へ目をやるとたった今噂をしていたばかりの冬原の姿が見えた。

丁度星座科教室の真下あたりの木陰。動かない辺りおそらく寝ている。
まだ授業も始まっていないし、いいか。そう思い俺は教室から出た。


案の定、冬原は寝ていた。

「おい、おい冬原」

声をかけても起きない。そして腕の中にはすっぽりと納まった縞々の猫。
首輪をつけてない辺り野良猫でどこかから迷い込んだのだろう。その猫も呑気に冬原の上で寝ている。

小さくため息をつき冬原の側に屈み頬を弱く叩いた。

「おい冬原」

3、4回叩いても冬原は起きない。

どうするもんか、と悩んでいると頬に涙が伝っていた。
思考停止する。え、そんなに頬叩いたの痛かったのか!?

「お、おおおいっ!!!冬原!?」
『…っあ、』

俺が動揺して叫ぶと冬原は瞳を開けた。

『み、やじく…ん?』
「いや、あの…どうして泣いてるんだ?!まさか頬が痛いたのか!?」
『あ、…え?違いますよ。欠伸です』

そんなのはきっと誤魔化しだろう。
でも触れられたくないから誤魔化したのだ。だからあえて言わない。そうか、で流した。(痛さじゃなくてよかった)

「じゃあ俺は行くが、何かあったら保健室にでも行くんだぞ?」
『はい…お気遣いありがとう、ございます』

俺は冬原から遠ざかる。校舎の角を曲がって首を傾ける。

「…?」

なぜだろうか。冬原の涙を見てからどうも動悸が激しい。
五月蝿い心臓


2012.02.03 修正・加筆


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