思わず箸を落っことしそうになった。え、何これ。何のイジメですか、これ。
そして私が返事もしてないのに不知火先輩は私の前に座り、
優雅に、いや豪快に朝食を食べ始めた。
『…他に席あるじゃないですか、』
食堂は見事にスカスカである。なぜ私の前に座る。
「俺はこの席が好きなんだよ」
『じゃあ私移動します』
この人と一緒に食べる位なら席を動いてやる。
プレートを持って席を立とうとしたとき「まあ待て」と止められた。
ああもう面倒くさいことになった。こうなるのだったら月子ちゃん達とご飯食べた方がまだマシだっただろうに。
「お前に聞きたい事があってな、」
『…』
「お前って人と関わるのを必要以上に拒否してるよな」
人の返事も聞かずに話し始める。何なんですか、この強引さ。ていうかだから昨日人と関わるの苦手だと言ったはずなのに。
「まあそれはあんまり良くはないけど置いとくとする。
で、だ。どういうわけだか俺はお前に苦手というよりは嫌いという意識をもたれていみたいでな」
『っ』
「どういう事か聞きたい訳だ。俺は」
確かに失礼なのは分かってるけれど感情をコントロール出来ない。どうしても、この人を拒否してしまう。
『…別に、関係な』
「なくないだろ。お前と俺のことだ」
『っ、』
確かにまあそうなんだけど。私個人の問題であってだからあなたは関係なくて。
「俺も喋ったこともない人間から嫌われると傷付くんでなー」
もうほんと、やだ。この人が嫌い。それでも一番キライなのは自分自身だ。
『もう、近づかないでください』
「断る。俺は逃げることより近づくことを選ぶタイプだからな」
ええ、そうでしょう。私はどうせ、反対の人間ですよ。
バァンッ、と机が派手な音をたてる。プレートの上で食器がかちゃんと小さく響く。食堂が静まる。手のひらがジンジン痛むけれど気にしてられない。
『っ、…なにも、知らないくせに…っ』
私は、そのまま食堂から走り出した。
不知火先輩から逃げた。
Side Kazuki
何も知らないくせに。目の前の彼女は俯き、俺にしか聞こえない程度の声でそう呟いた。
そして冬原は飯が載ったプレートを残しどこかへ走り去った。
俺は驚きで追いかけるという事さえ思いつかなかった。
シーン、という擬音がぴったりな食堂。生徒達の丸くなった目が俺に向けられる。
あいつ飯どうすんだろ、とか意味も分からない事をふと思い冬原のプレートに目を向ける。
プレートの直ぐ横。白い机にいくつかの小さな水溜り。その上にあったのは冬原の頭。
「っあー…」
やべ泣かせた。その事実が頭を何度も反復する。
つまりどうやらあいつにとって泣きたくなる様な酷い事を俺は言ったようだ。
ていうか、ていうかていうか。
「何も知らないくせに、って…お前が何も言わねえから分かるわけないだろ」
分かって欲しいのか。それとも分かって欲しくないのか。
分かって欲しいなら言えばいいのにお前はそれをしない。
だったら何も知らないくせに、なんて言葉をぶつけるなんて理不尽だ。
お前は何も知らせないくせに、
矛盾するその言葉
2012.02.03 修正・加筆