「…ん、ぅ?」
「あっ、あああっぬいぬいが起きたのだあああっ!!」
身体を微妙に動かしただけで反応できた翼は何気に凄いと思う。
「だ、大丈夫か?」
心配そうに眉を下げて俺に問いかけてくる翼に「るせえよ…」と言おうとした俺を叱る。馬鹿か俺は。
「…大丈夫だ。悪かったな、心配かけて」
「ほんとですよ…、心臓が止まるかと思いました」
憎まれ口を叩きつつもちゃんと心配してくれている颯斗にも悪かったと謝る。
「なあ、…ハルキは?」
「………冬原さんは、精神的ショックが大きいみたいでまだ目を覚ましてないよ。あっちには宮地くんや夜久さんも居るから」
「そうか…」
誉がこういうことは一回だけにしてよね、と俺の頭を軽く殴った。
おいそこ頭打ったところなんだけど、知っててやってるよな。
そのあと星月先生と医者から話を聞き、全身の打撲と左腕の骨折、それと首にある石を下敷きにしたせいの傷跡だけだったらしい。
二階からだったこその幸いだといわれた。そりゃたとえば五階から落ちたら死ぬ。
右手がなにかに包まれているのを感じた。
誰かなんて、見なくても分かると豪語してみる。普通泣いてたら誰でも分かると思うんだ、俺。
瞼をうっすら開けるとやっぱり予想通りの奴が居て。
でも泣いている。…無事だから喜べよ、そこは。
俺は起きるのを止めにして、狸寝入りを決め込んだ。
『っ…せんぱい、死んじゃ、いや…っ』
死んでねーよ。勝手に殺すなよ。
点滴とかよく分かんねえ機械とか色々繋がってんだろ。
いまここで、起きたらきっとハルキは安心するんだろう。
だけれど。右手が、繋がっているところが千切れるのはどうにも惜しくて。
だから、今日だけで良いから。
今だけでいいから。
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