Side Kazuki
「あいつ、怪我どうなってんのやら…」
あいつの事だから誰かに肩借りたりとかしてなさそうだもんなあ…。
独り言のつもりでぽつりと呟いた言葉はしっかりと一人の奴に聞かれていた。
「あいつ………、オヤジの、お姫さまのこと…?」
肘をついてあごを手に乗せていたので思わずがくっとなった。
「おま…聞いてたのかよ…、ていうか誰から聞いたそれ」
「おーしろーが言ってた」
あいつ…っとに要らんことばっかだな…!
そんなんじゃねえからな、と机に頭を乗せたままこちらを見ている四季に間違った考えを正す。
「…あいつ、今日、あぶない」
「…は?」
なにを突拍子もないことを。
しかしこう見えて四季は星詠み科の特待生だ。そしてこんなことで嘘はつかないと俺は思っている。
「さっき視た…」
「…おいそれ、」
どういうことだ。と問い質そうとした瞬間、俺にもその光景が浮かんだ。きっと四季が言ってるのと同じものだ。
「っ、行ってくるからよろしく言っといてくれ」
「…ん、オヤジ気をつけて」
おう、と返事をして俺は教室から抜けた。
『…視聴覚室、遠いなあ』
視聴覚室に行くには二階分階段を上り、校舎の一番端まで行かなければならない。言ってしまえば…凄い面倒くさい。
星座科はプロジェクターを使う機会が多いので移動せざるを得ない。(言うなら一週間に二回程度だ)
まあ夏だからという理由で開きっぱなしの窓のところを歩くのは涼しくて好きだけれども。
色んな教室の前を通りながら歩いていたところで、後ろから誰かに名前を叫ばれた。
私のことを名前で呼ぶのは今のところ三人しか居なくって、それだから判別するのなんて楽々で。
それでもきっとこの人に苗字で呼ばれたって直ぐに誰だか分かる。
私は返事も出来ずにそのまま逃げるように走り出した。正しくは、逃げるために走り出した。
微妙に治りかけの足が痛むが気にしてられない。
後ろから、馬鹿逃げんな!!と怒鳴られた。私はびくりとその場に教科書を両腕で掴んだまま固まる。
そして急激に止まったのがよくなかったようで、後ろから走って来たらしい男子生徒に肩が接触する。
捻った右足は私の体重を支えきれなかった。悪いことは重なるとよく言う。
バランスを崩しながら傾く体。再び叫ばれる名前。
視界が白っぽい廊下の天井から青に切り替わる。
なにが起こっているのかよく分からなかった。
当事者でさえ理解不能