lonely lonely | ナノ

返事はない
『…あ、』

大浴場に入りに行こうとしたら夜久さんとばったり出くわした。あー…なんてバッドなタイミング。

「えっと、…こんばんわ」

夕方の事を気にしているのだろうか。伏し目がちに挨拶した夜久さん。
東月くんの言ったことを思い出し、

『こんばんわ、夜久さんは今あがったんですか?』

そう言うと夜久さんはぱっと、顔を明るくした。…可愛いな、私とは大違い。

「うん、今帰りなの…冬原さんは?」
『私は今から入りに行くところですよ』

そっかあ、と夜久さんは笑った。

『それじゃあ夜久さん、湯冷めしないように気をつけてくださいね』
「冬原さんも!あ、前から言いたかったんだけど私の事は苗字じゃなくて名前で呼んで欲しいな…」
『月子、さん?』

ちゃんがいいな、と夜久さんが言う。そう言うのなら、

『じゃあ月子ちゃんって呼びますね』
「私も、ハルキちゃんって呼んでも、いいかな?」
『構いませんよ』
「ありがとう!それと…私とハルキちゃんって同い年だから、敬語って外れないのかな?」
『すいません、癖なんでそれはちょっと無理です』

そっかあ癖なら仕方ないかな、と折れてくれたようだ。よかったよかった。

『じゃあ、私はお風呂入ってくるので、さようなら』
「うん、バイバイ!」

満面の笑顔で手を振られた。私も返す。
…これでいい、かな。

お風呂場に向かって歩き出した。



「「『あ、』」」

私がお風呂からあがると今度は幼馴染くん2人に出くわした。2人共お風呂上りみたいだ。
東月くんはともかく七海くんは私を見てすぐに目を逸らした。

『こんばんわ、』
「こんばんわ。さっき月子からメールがあったよ、ありがとう」

にこり、と笑った東月くん。その笑顔からは彼女がとても大切なのが伺えた。

「ほら、哉太も」
『え、』
「…ありがと、な」
『え…っと、じゃあ私帰りますね』

あっ、と後ろで言ったのが聞こえたけど気にせず寮のほうへ歩き出した。勢い的には走っているかもしれない。
東月くんに言わされただけかもしれないけど、
ありがとうなんて、言われるなんて思ってなかった。

下を向いて走っているとどんっ、と肩に衝撃が走った。
バランスを崩して後ろに尻餅をついた。タオルがぱさっ、と地面に落ちる。

「うわ、悪い!!」
『あ、いえ大丈夫です』

立てるか、という台詞と共に差し出された手をやんわりと拒否しながら自力で立つ。

『すいません』
「…いや、俺も悪かったな。お前、冬原ハルキか?」

なんで名前知ってるんだろう、と一瞬思ったけど当然だ。この学園の女子は2人だけなのだから。

『はいそうですけど、』
「俺は星詠み科の不知火一樹だ。よろしくな」

いきなりよろしくとか何この人。ていうか確か生徒会長じゃなかったっけ。
ああそうだ、私はこの人に関わりたくない。

「なあ話があるんだ」
『私にはありません、それじゃあ』

不知火先輩の台詞を強引にぶった切って、寮の方へ走り出した。
でもやっぱり男と女じゃ歩幅やその他もろもろで簡単に追いつかれた。

「おい、待てよ!」
『離してください!』

がしっ、と手を掴まれた。
反射で思いっきり不知火先輩の手を突っ放した。

『…やめてください、こういうの』
「悪かった。でも話を聞かずにどっか行くってのも非常識じゃないか?」

それは確かに正論だ。正論だけども、

『私は人とは関わりたくないんです』

そういうと不知火先輩の目が丸く開かれフリーズした。
それをいい事にさっさと寮の方へ歩き出した。

今度は追いかけてこなかった。


バタン、と閉まった扉。
その扉を背にずるずるとへたり込む。

体育座りをした足の間に顔を埋め掴まれた腕を逆の手で握り締めた。
鼓動が早い。うるさい、黙れ。

『っ、かず、き…っ』

荒い呼吸の間に名前を呼んだ。
返事はないけれど

2012.02.03 修正・加筆


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