lonely lonely | ナノ

飛べる
小さな方のメモの方には「机のなか」と書いてあった。

泣いてられない。和樹が遺したものをちゃんとさがすの。それを胸のなかで決意して頬の涙をぬぐった。
なんだか宝探しみたいだなあ…と思いながら
試しに引っ張ってみると1つだけ鍵がかかっていた。

きっとこの鍵が開ける鍵だ。
オルゴールのなかに入っていた鍵を差し込むと案の定鍵が回る。

開くと、ペンダントやら写真立てやら。
それらには共通点があって、総て私があげたものだった。

『使ってよ、バカ………』

飾ってよ、身に付けてよ。
誰が、誰が…こんな風に宝物みたいにとっておけなんて言ったの。

あながち「宝探し」は外れてはいなかった。

「宝箱」の一番奥に箱に入ったものがあった。一番大切そうに一番奥に鍵で閉じ込めていたのは
私と初めて揃えて買ったあの日付入りの指輪だった。
違うのは刻まれた名前だけ。

バカ、やっぱりバカだよ、バカでしょう。
拳のなかに収まるサイズのそれを両手で包むように握った。

『……すいません、樹さん。一人に、してもらって良いですか…』
「………ええ、一階で待ってるわ」

樹さんは微笑んで部屋から出て行った。
ぱたん、と扉が閉まる音が聞こえてからぼろぼろと涙がこぼれた。


階段を降りる音で分かったのかリビングの入り口をくぐると不知火先輩がソファから顔をあげていた。

「落ちついたか?」

一樹先輩が私に問いかける。
顔面は涙で腫れていて落ち着いたとは言い切れないが、心としては落ち着いた。

『はい。…樹さん、お邪魔しました』
「良いのよ。またお休みのときにでも遊びにいらっしゃい?自分の家だと思ってくれてもいいのよ」
『…はい』

にこり、と笑って言う樹さんにまた泣きそうになってしまった。
ホントに、和樹の家の人たちは好い人だ。

そう思っていると樹さんが思い出したように「ああ、そうそう」と言い私をちょいちょいっと手招きした。
首を傾げながら寄ると所謂"内緒話"のように自分の口に手を添えて

「恋愛も、ちゃんとしてね?あそこの彼とか」
『は…っ、!?』

あそこの彼とはつまりようはあの不知火先輩のことだ。

『え、ちょ…っ』
「あの彼、相当ハルキちゃんが心配だったみたいねー」
『え…』

樹さんがころころ笑う。

「私が下に降りたとき、彼の顔凄かったのよ?それからもずーっと腕組んでソファで仏頂面。
心配かけたらごめんなさい、をしなくちゃ。彼もハルキちゃんも笑ってる顔が一番良いわ」
『はい…』
「うんそれで良いの。長く引き留めてごめんなさいね、そこの彼も」
「いえ、気にしないでください」

笑う不知火先輩。私が不知火先輩の隣に並ぶとそれじゃあ行くか、そう言って歩き出した。



「…」
『…』

無言で歩く。聞こえるのは足音くらいだ。
耐えきれなくなってあの、と声を発すると不知火先輩がこっちを向く。

『笑え、って和樹の手紙に書いてたんです。笑いなさい、って樹さんに言われたんです。
だから…今すぐにとは言えないけど…学園でも皆の前でも笑えるように頑張ります』

そう言うと不知火先輩は一瞬だけ目を丸くさせた後、ふっと笑った。

「ああ、頑張れよ」
『っ、』

ああ、この人は…一体どれ程私のことを案じてくれたのだろうか。
私は自分のことだけしか考えられないのに。

『ごめん、なさい…』
「は…?いきなりどうした?」
『私、不知火先輩に頼ってばかりで情けないなあって…』

そう言うとなんだそんなことかと不知火先輩は拍子抜けしたように呟いた。

「頼ってくれた方が俺は嬉しいんだ。苦痛とかそんなこと思わない」
『でも…、』
「うだうだ煩いぞ!俺が良いっつってんだろ!」

気にすんな、って気にするに決まってる。
きっと未だに複雑というか納得できていない顔をしていたんだと思う。

「あーじゃああれだ。俺のこと名前で呼べ。礼っつーことでそれで良い」

今度は私が拍子抜けする番だった。

『そんなことで…良いんですか』
「そんなこと、じゃないぞ。良い一歩じゃないか」
『じゃあ………、一樹先輩』

なんだか気恥ずかしい思いが勝って俯いてしまった。
そんな私の頭のうえになにかがぽんっと乗った。そしてそれは左右に動く。

「良くできました、」
『…、私子供じゃないんですけど…』
飛べる日
(きみのために)(僕のために)(飛ぶんだ)

2012.02.04 修正・加筆
title by約30の嘘


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