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君に
樹さんに名前を呼ばれたとき、
頭が真っ白になった。言いすぎなんかじゃない。
ほんとに思考がすべて根こそぎ奪われたような感じだ。

不知火先輩に名前を呼ばれてショートしていた思考が動き出した。

樹さんに渡すものがあると言われて、私は断れなくて和樹の家に久しぶりに訪れた。

『………』
「少し待ってて、すぐ取ってくるから」

リビングまで通されて、私は足をそろえてソファーに座った。
隣には少しだけ困惑気味の不知火先輩。

『…』
「…」

私も不知火先輩も無言で。
ほんとは言わなきゃいけないことがいっぱいあるのに口が縫われたように何も喋れない。

暫くして、ぱたぱたと階段を降りてくる音がした。
樹さんが入ってきて私の前に膝をつく。

「ハルキちゃん、これを和樹から渡すように頼まれたの」
『これ、…』

手渡されたのは和樹が使っていた白い携帯。
少しだけ角が欠けていたのは事故のときに何処かにぶつけたから、なのだろうか。

「開いてみて」
『…』

言われた通りに開くと暗証番号の画面だった。

「ハルキちゃんになら解けるから、って。大切な数字だからきっとハルキちゃんなら覚えてるって言ってたわ」
『………』

4桁の数字を入力するタイプのようだ。
大切な数字。きっと日付…。

和樹の誕生日を入力。違った。
私の誕生日。違う。

『………』

指が止まる。
あとは、あとは…?

告白された日付。違う。
付き合いだした日付。違う。
あとは、なにがあるの。どうして、思い出せないの。

『っ…』

焦りだした思考ではまともな考えは出来ないと分かっているのに、

「冬原、落ち着け。きっとお前の大事な思い出のなかに答えがある。
お前はちゃんと覚えてる、」

焦っている私に、不知火先輩が声をかける。

ちゃんと覚えてる。
―これで、覚えるよな!

不知火先輩と和樹の声が被って聞こえた。

鞄をひっつかんで中を豪快に漁る。
その勢いに不知火先輩は目をぱちくりさせていたけれど気にしてられない。財布のなかからあるものを取り出す。

ずっと未だに捨てられなかった指輪。捨てようとも思わなかったけれど。
輪の内側を見る、と "0423 kazuki"。

それを入力すると画面がぱっと変わった。

『開いた…っ』
「ハルキちゃん、その数字は…?」
『初めて……出会った、日です』

四年前の4月23日。
君に初めて出会ったの、
(あの日が始まりだと、)(君と僕の始まりだと)

2012.02.04 修正・加筆


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