side kazuki
「で、不知火くんとハルキはどんな関係なんだ…!?」
目の前には仁王立ちで物凄い形相でそう問い詰める冬原の親父さん。
俺と冬原は正座させられている。
『だからただの先輩だって言ってるじゃない!』
「またまたー!お姉ちゃんってば照れちゃってー!!」
『秋夜は黙ってて!』
冬原の妹、秋夜ちゃんが殊更に事態をややこしくしている。
冬原も冬原で学園では見せない驚きのアグレッシブだ。こんなに叫ぶ冬原はあまり見たことがない。
唯一の温厚派は、
「まあまあ3人とも、不知火くんが困ってるでしょう?そのへんにしときなさい」
冬原のお母さんだ。ほわほわした笑顔で料理をテーブルに並べている。
「だって、母さん…!ハルキが…僕に何も言わないで結婚までしちゃう…!!」
話が飛躍し過ぎである。
何度も冬原が言ってるようにまだ付き合ってもいない。
「えーあたし不知火さんなら良いかなー、カッコイイしー!!」
「秋夜まで不知火くんの毒牙にかかっちゃったじゃないかー!」
遂には泣き出す始末。
冬原のお母さんがよしよし、と冬原の親父さんを慰めた。ていうか毒牙て。ひどい言われようだ。
「まあまあ、仕方ないじゃない。不知火くん顔が整ってるもの。自分の娘の夫がこんなにカッコイイなんて私嬉しいわ」
「母さんまで…!?」
「おとーさん、イケメン彼氏には勝てないよ」
『だっかっら………彼氏じゃないって言ってるでしょうが!!!!』
冬原が爆発したことにより騒動はとりあえず一段落となったようだ。
「でも何でまたいきなり帰ってくることになったのー?」
『なんでって…秋夜には関係ない』
「またお姉ちゃんはそーゆーこと言うんだからー!」
机を挟んでの姉妹(喧嘩ってほどではないので)口論。
お昼ご飯までごちそうになってしまった。
ちなみに俺の前には目をギラギラぎらつかせている冬原の親父さんが居るので居心地の悪さは否めない。
「不知火くん、口に合うと良いんだけれど…」
「あ、とても美味しいです」
「僕の妻が作ったんだから当然だね!」
"僕の妻"を強調されて言われる。
貴方の奥さんに手なんか出しませんて。(といっても冬原のお母さんは綺麗だが)
さすがにそれを言うわけにはいかないので苦笑いだけに留めておいた。
「ご馳走になりました」
「いえいえ、お粗末さまでした。それに片づけのお手伝いもありがとうねー」
デザートまで頂いた。冬原家の冷蔵庫からホールケーキが出てきたのにびびった。
3人で、これ…食うつもりだったのだろうかと。
聞いてみれば秋夜ちゃんが作ったらしい。
俺はかけてあったタオルで濡れた手を拭いていると、リビングから声が聞こえた。
「ねーねーもう帰るの?」
『帰る。顔見せに来ただけだもの』
帰り支度を始めていた冬原とその後ろから冬原をぐらぐら揺らして説得している秋夜ちゃん。なんだかんだで仲が言い姉妹だ。
だが冬原は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。
『不知火先輩、帰りましょう』
「別に俺だけ帰れば良いんだから、お前だけ少し残ってればいいんじゃないのか?」
『いえ…。いろいろ寮に置いてきちゃいましたから…。それじゃお父さん、お母さんもう学園に戻るね』
…気のせいか、おじさんの目に涙が浮かんでいる。そして恨めしく俺を睨むのをやめてください。
「あらあら、そんな急がなくても良いじゃない」
『ううん、今日放課後に用事があるから…』
「また来るんだぞ!」
『分かったって。気が向いたら帰ってくるから』
「絶対ね!ちゃんと帰ってきてよお姉ちゃん!」
『はいはい。秋夜はちゃんと勉強してお父さん達を困らせないようにね』
まるでお母さんだ。
「不知火くんも、また是非いらしてね」
「え…良いんですか」
その言葉は主に冬原の親父さんに。
「母さんが言うなら…仕方ないね!母さんが言うならね!」
「…ありがとうございます」
やべえ、吹き出しそうだった。あぶねえ。
『それじゃ、また来るね』
「お邪魔しました」
ぺこり、と頭を下げて冬原の家を出た。
『すいません、なんか結構長居させちゃって…』
「いや、別に構わねーよ。それにお前の家楽しかったから」
『楽しいっていうよりは騒がしいんでしょうね、多分』
「ははっ、そりゃお前はあの環境に慣れきってるからだろ」
『そう、かもしれませんね…』
「ハルキちゃん…?」
背後から冬原の名前が呼ばれた。
びくり、と冬原の体が跳ねて、目を丸くして固まった。
俺は振り返る。と、後ろには多分冬原のおばさんと同じくらいの年齢の女の人。
「ハルキ、ちゃん!やっと会えた…っ!」
こちらに駆けてくる女の人。冬原は体を固くして振り向きもしない。
いやこの状態では"できない"の方が正しいのかもしれない。
「冬原、?」
『っ…、』
ぎゅっと前を向いたままの冬原の手を握る女の人。
「会えて良かった…、久しぶりハルキちゃん」
『…お久しぶり、です…。樹さん…』
「……冬原、この人は?」
『っ……和樹の、お母さんです、っ』
ああ、だから冬原の顔は
足らないものが多すぎる
(泣きそうなのかと、理解した)
2012.02.04 修正・加筆
title by 約30の嘘