母さんに電話すると、「え、帰ってくるの?ああそう、分かったわー」となんともあっさり受け入れられた。
これで居なかったりしたら良かったのに。
母さんの馬鹿、と心の中で理不尽な悪態をついた。
『ここ、です』
「ほーここか」
帰りたい、今すぐ直ちに物凄く帰りたい。
もうここまで来たのならその選択肢は選べないのだけれど。インターホンを押すと、母さんが出た。
「はいはい、冬原ですよー」
『あ、…私』
「あ、いま開けるわー」
数秒後、ガチャリと扉が開いた。顔を覗かせたのは、
「お帰りー!お姉ちゃ、………だれその人ー!?だれだれ!?やっばい超イケメンなんですけどー!!」
妹、だった。
…妹、秋夜も帰りたくない要因のひとつでもあった。
「やっぱ彼氏!?お姉ちゃんやーるぅー!!」
『挨拶をする!!それと彼氏じゃない!』
「はっじめましてー!お姉ちゃんの妹の冬原秋夜でーす!彼氏さんお名前伺っても宜しくてー?」
初っぱなから飛ばしまくりで不知火先輩は目を白黒させている。
まだ喋ろうとした秋夜を遮って母さんが出てきた。
「お帰り、ハルキ」
『…、ただいま』
「そちらのかたはー…?」
『学校の先輩!不知火…、一樹先輩』
名前をあまり言いたくなかったのだけれど仕方がない。
母さんはとくに気にした様子もなくふわりといつもの様に笑って、
「ごめんなさいねぇ、不知火くん。ハルキと秋夜が」
「いえ、…」
「まあ中に入ってください、ほら秋夜。準備手伝って」
『はーい』
母さんが秋夜を連れて中に入っていった。
『………、妹がすみません』
「いや…元気な妹さんだな」
『元気すぎて疲れます…、陽日先生を何人か一気に相手してるかんじで…』
そう言うと不知火先輩は、ははっと笑った。
眠れないゆりかご
2012.02.04 修正・加筆