あのあと、宮地くんは我にかえったようにハッとして私を放した。
自分で動揺したのか「あ、ぅ…」と唸り声をあげ、すまんと一言謝った。
そして「………でも、俺にだって頼ってほしいんだ。…あ、いや俺だけじゃなく他のやつらもだが!」と言った。
何も言えずにいると宮地くんが皆のところに戻るぞ、そう言って踵をくるりと返した。
私はその背中を追って弓道場をあとにした。
皆に、頼るかあ…。
不知火先輩だけに頼るのは確かに言われてみればあまりよろしくないような気がする。
無事に学年上位に入り進級も確定して落ち着いてきたこの頃。
春休みに突入した。
勉強であまり行ってなかったあの猫のところにいくと、居なかった。
うーん、最近構ってやってられなかったから逃げられたか。
私は私服でぶらぶら校内を歩く。
帰省組はほぼ帰ったらしく、学園はいつもより静かだ。
課題もやってしまったことだし、暇すぎる。
『…家、帰ったほうが良かったのかなあ…』
夏休みのお盆以外会っていない。
そんな思いが微かによぎるけれども家の近くには和樹の家がある。出来れば帰りたくない。
「今から帰れば良いんじゃないか?」
思わず口から出た言葉に返事が返ってくるなんて思ってなかった。
吃驚して振り返ると、
「よっ」
不敵な笑みを浮かべ片手を挙げる不知火先輩だった。
「部屋からお前が見えたから来てみた」
そういえば今のここは牡羊座寮の前を過ぎた辺りだ。
「で、帰るのか?」
『え、いや…冗談ですよ冗談』
「別に冗談だってなんでもいい。親御さんも会いたがってるんじゃないか?」
確かに毎年、帰ってくるのかという連絡はくる。
それを毎年のように断る。母さんも父さんも深くは突っ込んでこない。
『会いたくないわけじゃないんですけどね…、』
和樹の家が近くって、そう言うと不知火先輩は私の手をがしっと掴んだ。
え、なんだこれ。
「財布に携帯、持ってるよな?行くぞ!」
『え、ちょ…っ!?』
私の手をぐいぐい引っ張りバス停のほうへ歩き出す。(歩き出すというよりは半ば引きずられている状態だ)
『や、やですよ!不知火先輩離してください!』
「断る!俺の前でうだうだするお前が悪い!どうにかしたくなっちゃうだろ」
いやその論理だと私が悪いみたいな感じじゃないですか。
「お前住んでるところは」
『………言いたくないです』
「言わないのなら今すぐ生徒会室まで行って生徒会長権限で住所調べて」
『分かりました言います!』
「最初っからそうしとけよ」
する。この人は脅しじゃなくて間違いなくやってのける。
仕方なしに住所を述べると不知火先輩は満足そうに笑ってよし行くぞ、と再度私を引っ張っり始めた。
バスに乗ったが最後。
そのまえにさっさと逃げ出さなければと考えていたが不知火先輩は逃がしてくれそうになかった
ブルー,ブルー,ブルー
2012.02.04 修正・加筆