明らかに萎れてしまった表情を見せた夜久さん。
ああ、ごめんなさい。私あなたのそんな顔見ても全然傷付けない。わざとじゃないんです。いろいろ欠落してるんです。その表情に気付かないフリをして私は寮の方へ歩き出した。
とんとん、と肩を叩かれる。ああもう今日はよく絡まれるなあ、
振り返ると、
「今ちょっといいかな?」
『東月くん…』
笑顔で私の肩を叩いたのは夜久さんの幼馴染の片割れの東月くんで、
正直、断りたい。でも彼の笑顔は有無を言わせないような、そんな圧力を秘めた笑顔で私は頷くしかなかった。
東月くんに連れられたのは学園の屋上庭園。
ベンチに座らせられる。東月くんは私の隣に座った。
「単刀直入に聞くけど、冬原さんは月子の事嫌いなの?」
『どうしてですか?』
「だって月子が喋ろうとすると避けたり、さっきみたいな笑顔で返したりするだけだから」
その通りだ。彼女を避けていたし、笑顔で返すだけだった。やっぱり気付かれてた。いややっぱり普通は気付きますよね。
「月子が自分が嫌われてるんじゃないかってね、」
『…もし嫌いだって言ったらどうするんですか?』
「そりゃ月子に近づくな、って警告を言うだけかな」
笑顔でそんな事言うもんだから、少しだけ吃驚してしまった。
『…嫌いじゃないですよ』
「じゃあ何であんな態度とるんだ?」
Side Suzuya
『私に近づかないよう牽制するため、って言ったらどうします?』
何だそれ。冗談とも本気とも取れるような言いぶりで。
「…もしそれが本当だったら何で牽制なんて、」
『嘘ですよ』
「…ちゃんと真面目に答えてくれないか?俺や哉太は月子が傷付くのは見たくないんだ」
『…大切なんですね、夜久さんのこと』
ああそうだよ、と答えると彼女は少し悲しそうに眉を下げた。どうしてそんな表情をするのだろうか。
『嫌いじゃないですよ。それは本当。人付き合いが苦手なんです』
「…そう。じゃあせめて態度だけでも改めてくれないか」
冬原さんは少しだけ考えて分かりました、と返事をした。
「だったらいいんだ、それじゃあ」
『さようなら』
俺は鞄を持ち冬原さんを残して屋上庭園から離れた。
『大切、ね』
いいなあ、と心の隅で少しだけそんな事を思ってしまった。
直ぐそんな思いは消してしまったけど。
バカな自分。
そんな事考えてどうするの、一体
(…さっさと、帰ろ)(…あ、課題しなきゃ)
2012.02.03 修正・加筆