「やっぱりなんかあったんじゃないのか」
そう言う不知火先輩。その表情は真剣で。
不知火先輩が鋭いのか、それとも私がわかりやすいのか。
言って、いや言うべきなのだろうか?
これは私が背負うべきものであって、この人に話したら一緒に背負おうとするんじゃないだろうか。それだけは避けたい。
『何でもないですよ』
「…嘘だろ。お前知ってたか?人間って嘘付くとき無意識にななめ右上を見るんだってよ」
お前いま見てたぞ、と言う。気付いたのなら言わなければいいのに。
『あの、でも…大丈夫ですから』
「…、手ぇ震えてるぞ」
『っ』
そう言って私の手に自分の手を伸ばす不知火先輩。引こうとした手はあっさりと、簡単に掴まれて。
「冷たい、」
『っ…あの、』
「ん、ほら生徒会室行くぞ」
先輩は掴んだその手をそのまま引っ張り歩き出した。
私は引かれるままに歩き出した。
生徒会室には当然ながら誰にも居ない。
不知火先輩は生徒会室の真ん中のソファに私を座らせる。
「ココア好きか?」
『え、あ…好きです…』
そう言うと不知火先輩はどこかへ消えていった。
数分後戻ってくるとその両手には二つのマグカップ。
片方を私の前に置き、もう一つを持ったまま私の前に座る。
「とりあえず温めろ。風邪ひいたら元も子もない」
そう言ってコーヒーを一口飲む不知火先輩。
ココアを手に取り口に運ぶ。口に含むと程よい甘さが広がる。
「まあ落ち着いたら話してくれ。待つから」
『…はい』
そう返事するとよし、と満足気に笑ってまた一口コーヒーを含んだ。
『…先輩、もう大丈夫です』
「ん、そうか。じゃあゆっくりでいい、話せるとこまでで良い。だから話してみろ」
その言葉が施錠を開けた。
何個も何個も固い鍵をつけていた扉を開けた。
中身は一番見たくない、聞きたくない、触れたくないもの。
苦しくて辛くて、泣きたくなるから
(震える手、)(私は口を開いた)
2012.02.03 修正・加筆