元気よく、それはもうこの寒空に似合わないほど元気良く弓道部の塊に挨拶したのは陽日先生だった。
そういえばこの人、弓道部の顧問だった。
私の姿を見つけて、一瞬目を丸くし、駆け寄ってきた。まさにこの人の事を百面相っていうんじゃなかろうか。
「冬原!来たか!」
『は、陽日先生…』
私の両手を握り、ぶんちょぶんちょと効果音がつきそうに上下に振った。
犬飼(字面教えてもらった)くんが「陽日せんせー、冬原の手が千切れんぞ」と
なんていうか、コメントしづらい言葉を陽日先生に放ち、陽日先生「はっ」と言い私の手を放した。
それで良いのか。ていうかそのコメントを真に受けるのか。
「良かったぞ!お前来なかったら寮に迎えに行こうかと!」
『それはやめてくださいお願いします』
「冗談だよ、でもホント来てくれて良かったよ。内心来ないかと思ってたんだ」
『あ、はは…』
そこに関しては苦笑いしかでてこない。
「まあ楽しんでけよ!」
『はい、…あの、陽日先生。気にかけてくださってありがとうございます』
そう言うと一瞬だけ目を丸くして驚き、
「俺は先生だからな!!でも嬉しいぞ!」
嬉しそうに笑ってそう言う。この先生は素直に感情表現が出来るんだなあ、と改めて感心した。
陽日先生が口を開こうとした時「なーおーしー!!」と後ろで呼ばれた。
「あ、悪い!俺行くな!」
『はい』
楽しんでいけよ!と去り際にそう叫んで呼ばれた方へ走っていった。
あ、そういえばそろそろ月子ちゃん達の所行こうかな。…東月くんが怖いけど。
少々の恐怖が心の中にあるけれど、まあ動かないと仕方がない。
犬飼くんと宮地くんに別れを告げて月子ちゃん達を探すことにした。
人ごみのなかに陽日先生を見つけた。…正しくは、結構大きな声で騒いでいたから自然と目についた。
陽日先生の眺めると男子生徒と楽しく喋っている。
というか、男子生徒がちょっかいを出してふざけている。
『…子供みたい、』
「誰がだ?」
『陽日せんせ…え、』
「ああ、直獅か…。あいつお祭りごと大好きだからな、」
独り言のつもりだったのに返事が返ってきた。
振り返ると特徴のある青緑の髪。
『えと、…星月、先生?』
「なんだ、俺の名前覚えてなかったのか?」
『あ、や…自信がなかったんですよね』
曖昧だったんじゃないか、と星月先生は笑う。わあ、綺麗な顔。
「俺の顔になにかついてるか?」
『あ、いえ。綺麗な顔だなあって』
「そうか?お前の方が綺麗だと思うがな」
『お世辞でもありがとうございます、』
そう言うと星月先生は「俺はお世辞はあんまり言わない主義だ」と言った。ああ、ぽいなあ。
『でも、私なんかより可愛い人は…例えば月子ちゃんとかのが可愛いですし』
「…お前はなんていうか…卑屈に考えすぎだ」
卑屈?そうですかね?
「もっと自分に寛大になれよ」
『…先生は寛大過ぎる様な気もしますが…』
よく言われる、と星月先生は眉を下げて笑った。
「お前なんか近寄りやすくなったな」
『へ…』
いきなり何を言い出すのかと思った。
「前はこう…一匹狼みたいな感じだった。何があったとは聞かないが良い事だと思うよ」
『…私もそう思います』
「そうか。まああれだ、」
何を言うかと気になってみたら「楽しめ」とざっくりしたコメントを頂いた。
そして欠伸をしながらどこかへ去っていった。
嵐のように去っていく
(結局、なんだったんだろう…)(冬原さん、)(こ、の声は)
2012.02.03 修正・加筆