lonely lonely | ナノ

羨ましい
びゅっと風が吹いた。思わず身を縮める。
屋上庭園には星月学園の生徒がすでにたくさん集まっていた。

『さむ…』

マフラーにコート、手袋でもむき出しの足と顔は寒い。スカートってこういうところが不便ですよねえ。
くるりと周りを見渡すと生徒のなかに月子ちゃんと宮地くんを見つけた。

よく見ると月子ちゃんの格好は制服にマフラーだけだ。え、なんで。月子ちゃんだけ私に気付いて振り返る。
笑顔だけれどその頬は赤い。私は駆け寄った。

「む、冬原か」
『月子ちゃん、何でそんな薄着なんですか!?』
「え、あ…生徒会室からそのまま来ちゃって」

てへ、っと笑う月子ちゃんにがっくりする。
自分のコートを脱いで月子ちゃんに着せて、手袋も外し月子ちゃんに渡す。

『これ着てください』
「え!?でもハルキちゃんが…」
「おい、そんな事したらお前が寒くなるだろうが。俺が」

そんな事したら宮地くんが寒いでしょう、と止める。

『私はマフラーがあるんで大丈夫です、ほら早く着て』
「私だってマフラーあるよ!」
『月子ちゃんが着ないなら私も着ません』

そういうとおずおずと私のコートに腕を通した。

『暖かいですか?』
「うん。でも…、」
『大丈夫ですよ。カイロも持ってますし』

嘘なんだけど。でもこうでもしないと安心してくれなさそうだったから。

「じゃあ、借りるけど…寒くなったら言ってね!」
『はい、』

約束だよ、と月子ちゃんが念を押す。
どうしようか返事に悩んでたとき月子ちゃんと宮地くんが弓道部だったと思う人たちに呼ばれた。

「あ、ごめん!私呼ばれてるみたいだから行くね!あ、そうだ!ハルキちゃんも行こうよ!」
『え、や…もうちょっと心の準備がいるんでやめときます』
「別にそんなの要らないだろう。ほら行くぞ」

宮地くんが堂々と私の手をとって歩き出した。え、
月子ちゃんが目を丸くして私…というか私たちを見ている。そりゃそうか。
でもそんな顔は瞬時に戻り、なぜか笑顔でついてくる。え、何で。

『あ、え…ちょっ宮地くん!?』
「そんなに硬くならなくて良い。一応白鳥も居るしな」
『宮地くん…それはフォロー…?』

そういえば白鳥くんも弓道部だった。あの騒がしい人に弓なんてうてるのか、と一度は思ったものだ。ごめんなさい白鳥くん。

気付けば弓道部の方々はもう目の前。

『え、あの、えちょっ待ったなし!?』
「なしだ。ほら」

私の手をぱっと離し、とんっと軽く背中を押される。
少しバランスを崩しかけたが、前のめりになりながら両足できちんとバランスをとる。

顔をあげると、

「「……」」

唖然としている白鳥くんと…眼鏡くんが居た。

『え、あ…の、こん、ばんわ?』

何で疑問系なんだ、自分。どういう事だ。
しかし口からでた言葉は元には戻らない。ああ、タイムマシンが欲しい。

「え、こんばんわ?って、何で俺も疑問系なんだ!?」
「うるせえよ白鳥。あー…冬原、で良いんだっけ?」

酷い犬飼!と後ろで白鳥くんが喚いているがイヌカイくんは華麗にスルー。わー酷い。
最終的に白鳥くんが「夜久のとこ行ってやるうううう!」と宣言して月子ちゃんの方へ走っていった。

「えー…と」
『え、っと』

ダメだ。何から切り出せば良いのやら。
後ろに居た宮地くんに助けを求めることにした。

『宮地くん助けてください!』
「む、何でだ。普通に喋ればいいだろう」

その普通が出来ないから困ってるんじゃないですか!というとまた何でだと返される始末。
なんでこの人は分からない!?
どうやって説明していいか悩んでいると、隣でぶっと聞こえた。

その方向にはイヌカイくんが居て。

「ぶっ、はは…っ、わ、悪ぃ…っ!」
『え、あの、』
「っ…あまりにも、冬原が百面相だから…っ!」

あー笑った、と眼鏡の奥の目の端を指先で拭っている。

『え、あの…そんなに、百面相?』
「「だいぶな」」

なぜか揃った二人の声。なんでそんな所でそろえるんだ。

『宮地くんまでそんな事言わないでくださいよ…』
「む、悪かった」
「ていうか冬原って素はそんなんなんだな」

イヌカイくんが意外という風にそう呟いた。

「俺はもっと冷たい人間なのかと思ってたぜ」
『なんかごめんなさい』
「何でそこで謝るんだよ」

とイヌカイくんは独特な笑顔で笑った。

「冬原って面白いな」
『…それって褒めてるんですか?』

褒めてるぞ!と笑顔で言うけれど褒められている気がしない。

「まー仲良くしてくれ」
『あ、えと…こちらこそ?』
「だから何で疑問系なんだよ」

またイヌカイくんは笑った。
自然な笑顔が、羨ましいよ
(いつかまた笑えるように、なるかな)(おーっす!お前らー!!)

2012.02.03 修正・加筆


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