lonely lonely | ナノ

果て
きっ、と不知火先輩を睨む。

『…何がしたいんですか?私の過去がそんなに面白いですか?恋人が死んだ漫画みたいな展開が?』
「…そんな事言ってないだろ。ただ、名前が一緒なだけでそんなに過剰に、」
『っ、名前だけじゃない!喋り方も、雰囲気も!見間違うぐらい似てるんです…っ』

全部全部。
どうして、って思うぐらい貴方と似ている。

だから、この人には…不知火先輩には近づきたくなかった。
和樹が居るんじゃないか、って錯覚に陥ってしまうから。そしてその後に私を襲うのは和樹が居ないという事実だけだ。

止まっていたはずの涙が頬を伝う。顔を覆う。手のひらに涙が落ちる。
指の隙間から不知火先輩が私に手を伸ばすのが見えた。
反射でその手を弾いた。

『触らないで、っ!』

不知火先輩は悪い、と言って伸ばした手を戻した。

辛い。もう辛いよ、和樹。もう良い。もう、もう全部。
そうよもう。和樹がいない世界なんて何もかもどうでもいい。

早くこうしておけばよかった。


Side Kazuki

冬原が泣いてる。でも俺は何も出来ない。

伸ばしてみた手は拒否する言葉と行動に弾かれた。こいつが欲しているのは俺の手じゃない。
でも、こいつが欲しい手はもうこの世界の何処にも存在しない。

じゃあ、どうすればいいんだよ。

冬原はゆっくりと、俺の前から動く。どこに、行くつもりだ。
あいつの向かった先は屋上の端。

屋上の柵に手をかけ、そこでくるりと振り返る。

『早く、…こうしておけば良かったん』

泣きながらそう笑って俺に言った。それはさっき視えた映像にそっくりだった。

まさか、俺の考えた最悪な未来がまた星詠みで視える。

それはきっと数秒後の未来。
冬原が屋上から飛び降りる未来。

奇跡的に俺の体は動いた。
柵を乗り越えようとした冬原の腕を引っ張り、屋上庭園の床に一緒に倒れこんだ。

「っ…馬鹿が死ぬな!そいつだって、死んで欲しいなんて思ってない!お前の事が好きならそんな事思ってないはずだ!!」
『っ…和樹は、和樹はそんな事思ってないですよきっと!だって私を…っ!彼が居ない世界なんて要らない…っ!!』

目からは大粒の涙がぼろぼろ零れている。俺はその涙を親指で拭った、今度は拒まれなかった。

『…和樹、和樹…っ!』
世界の果てを知っていて

2012.02.03 修正・加筆
title by約30の嘘


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