※リョウくん視点でお送りします。
美砂がいなくなった教室には沈黙がおりていた。何なんだよ、いきなり。それもユウスケがいないほうから出てきやがって…結局あいつは遠回りに玄関行くんだろうな、と彼女がいなくなった廊下を眺める。
「な、リョウ。俺さ」 「真剣な声出してどうしたんだよ」
彼女がいなくなった原因が、俺に話しかける。それもいつになく真剣な声色で…それがなんだかおかしく思えた。 なんなんだ、こいつら。
「俺、名前さんに悪いことしたか?」 「…さあ?」
気付いてなかったのか、と鈍感な友人を見て溜息をついた。
「…って、ユウスケ。いつから名前を名前で呼んでるんだよ?」
変だとおもった。彼は俺のことをリョウ、そしてあいつのことを名字と呼んでいたはず、なのに。
「あー、いやなんとなく?」 「そっか」
怒ってやりたかった。なんとなくであいつを振り回すな、とも思った。あいつはあいつでもう嫌なんだと思う。はっきり、させなきゃダメだ。
「なあ、ユウスケあいつのことどう思ってる?」 「あいつ?…ああ名前さんのことか」 「今話題になってるのそいつしかいないだろ」 「それもそうか。名前さんはリョウの従姉妹で、クラスメイトで…気軽に話せる女友達かな…」 「そっか」 「変なこといったか?」 「いや?」
女友達、か。 やっぱりそうだよな。
「な、ユウスケ結局彼女いるのか?」 「は?」 「え?」
すごく怪訝な顔をされた。ユウスケの彼女の話題でこんな顔するのは始めてだ。 ユウスケはきょろり、と周りを見渡して一つ溜息をついた。
「リョウになら言えるかな。俺、彼女はいない。むしろ出来るわけねーだろ。弟たちと遊んでる俺が。噂になってたのは弟に一目惚れした彼女が俺と仲良くしていつか弟を惚れさすとか計画練っててその手伝いしてだんだよ」 「…意味わからん」 「とりあえずこれは内密に、って言われたけど。まあお前ならいいか」 「じゃあ好きだとかうんぬんの話は…」 「『あなたの弟さんに一目惚れしてしまいました!お願いします、手伝ってください!』みたいに言われた。っ、女声出せねぇな」 「ああ、一目惚れがユウスケになって、手伝ってが付き合ってか。だから噂立ったのか」
なんだ。彼女じゃないのか。よかったじゃんあいつ。まだ望みはある。
「ま、そういうこと。んじゃ帰ろーぜ」 「おう」
僕らの時間は進まない (まだ進む気配はなく) (でも、ゆっくりと時間は近付いてくる)
120520
|