私は変わらず授業を受け、何事もないかのように日々を過ごした。そしてあまり噂が立たない田畑くんに噂がたった。

「彼女、出来たんだって、」

そういう噂はいとも簡単に回った。田畑くんを目の保養!と言っていた友達もショックのようだ。そして、リョウも。

「なんで教えてくれなかったんだろーな。俺、あいつと友達だと思ってたんだけど」
「本人にちゃんと聞けばいいのに。リョウって案外意気地無しだよね」
「そのままそっくりお前に返すわ」
「ひどいわー」

否定なんか出来ない。事実だからこそ、私は何も言えない。聞きたいけど、聞かれたくないかもしれない。真実かもしれない、嘘かもしれない。そんな感情がぐるぐると頭の中でまわる、気持ち悪い。

「否定はしないんだな、」
「……」
「無言は肯定と見なす」
「あー、ほら喋った。否定、否定」
「揚げ足とるなっての」

「っ、お前ら変わらないな…!」

リョウとくだらないことを喋っていたはず、なのにあれなんで田畑くんの声が?

「お!ユウスケ!今日一緒に帰ろーぜ!」

田畑くんはいつの間にか、教室の扉に寄り掛かっていたようで、口許を緩めていた。…かっこいい、かも。…ううん。だめ。こんなこと思っちゃだめ。

「ん?あー、…すまん今日も無理だ。リョウは名字さん送ってやれよ」
「え、…ユウスケそれは鬼畜だろ…!なら俺一人で帰る!」

二人の会話に堪えられなくなった私は、席を立ち鞄を持った。ガタンと大きな音がしたから何事かと思うだろう。

「私、今日早く帰んなきゃだめだったわ。じゃね」
「おー」
「またな」


逃げるなら入口から


(逃げちゃいけないのはわかっているんだけれど)
(私はわざわざ、田畑くん側ではないほうの扉から出た。ごめんなさい)


120515

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