届け、届け。

彼が歌う。何も変わらない、歌声のように聞こえるが少し震えている。大丈夫かな。
いつも通りに済ませ、彼は手を振る。その動作で彼のファンはきゃあと黄色い声を上げた。

「お疲れ様です、」

一人呟き、私はくるりと出口へ向かう。最高でした、ライブ。私の思い出です。

「名前!」

名前が呼ばれる。なんだろう。終わりなはず。彼が私の名前を呼ぶのはおかしいだろう。彼としては私はただの1ファンだ。

「金造さん、お疲れ様でした。今日もかっこよかったです」

振り向いたら涙が出そう。振り向かない。

「おん、で、なんで泣いとるんや?」

泣いてる、泣いてるの私は?

「金造さんの気のせいですよ、」
「嘘や、声震えとる。気になる奴やったらわかるわ」

気になる奴、え。どういうことなのかと彼に問い掛けようとすると彼は後ろから抱き着いてきた。私はびっくりして反応が出来ない。

「すきや、好き、なんや。気にするとなんも手つかないくらい好きなんや」
「私もですよ、金造さん」

前を向きながら返事をする。
その後のことは一応秘密だ。

後日談は少し、言っておこう。

私は、無事彼と両思いとなった。やっぱり少し恥ずかしいのだが。
実際問題、私はあのライブの後実家に帰ろうとしていた。だからこそ私の中であれは最後のライブだった。またこっちに戻ってくるとも限らなかったからだ。でも戻ってこなければ理由が出来た。

「金造、好きだよ」
「俺もや」

力を込められまた抱きしめられる。私は彼の体温を感じながら目を閉じた。


111119



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