意味のわからない違和感が現在進行形で襲ってくる。彼女には見せたくない。でも見せて理解させたい。そんな葛藤。

「どうしたんやろ…」

ぼうっと自室で考える。目の前には今や使わない祓魔の教科書。表も、裏もぼろっぼろになっている。

「……意味わからんわ」

考えるのは苦手だ。考えるよりも行動する、それが俺だったはず。

「金造、どないした?今日バンドやなかったか?」

柔兄に言われるまで俺は全く気付かなかった。


――――


受付の人は今日金造さんのバンドが出る、と言っていた。勿論、私は来ている。彼は今日どんな風に歌うのだろうか、彼はどんな表情を見せてくれるのだろうか。それが楽しみだった。

「名字さん、ちょっと」

名前を呼ばれ振り返ると、いつの日か会った金造さんバンドの人達だった。

「……何か?」
「すいません、来てくれますか?」

少し訛りが残っている標準語で私を控室へと通らせた。

「金造、名字さん連れてきた」
「おん、ありがとな」
「連れてきたんやからちゃんと歌えや?」
「ん、」

曖昧な返事をした金造さんにぱしりと背中を叩き、バンド仲間の方達は控室から出ていった。そして今、少し狭い部屋で私と金造さん二人っきりである。緊張する…。

「名前さん、」
「なんですか…?」
「好きってなんやと思う?」

何かと思いきや恋愛相談なのか…?

「私に聞かれても…」
「名前さんの思うままでいいから…」

そういわれ、私は渋々口を開いた。

――――

歌えなかった。
こんなことあるのかってくらいに声が出なかった。彼女のことを思って、声が出なかった。見れば声が出るんじゃないか、と思いバンド仲間に彼女を呼んでもらったのはいい。俺は何をしているんだ。

「好きっていうのは、相手のことを考えてたら幸せになるってことですかね?私、幸せですもの」

幸せということは彼女には好きな人がいるということなのか。考えるとちくりとどこかが痛む。なんだろう、どうしてだろう。

「金造さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫や、堪忍な…」

俺は彼女のことを考えたら幸せなんだろうか。じっと目の前にいる彼女を見つめる。
わからない、けど今なら歌えそうだった。
「じゃ、歌ってくるわ!見ててな!」
「頑張ってくださいね」


苦しくても恋をしています

「ラヴソング歌ってみたいなあ」

俺は彼女のことを思い出し、呟いた。



111117
金造さん誕生日おめでとう!

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