会うとは思ってなかった。私の憧れているバンドの彼―…。
私は彼のバンドを見た帰り道、変なおじさんに声をかけられ、引っ張られた。有り得ないとは思ったものの、声を上げようとしたら持っていたハンカチを口に詰め込んできて「声出したら犯すよ」と多分言ってきたのだ。そんなことに面識なんてなかった私は足を震わせ、おじさんの成すがままにされそうなときに助けてくれた。私はその人が天使か何かかと思い、涙を流しそうだった。怖かった、本当怖かった。
とりあえずお礼を、と思い普通に喋ろうとしたのに声が震える。なんとか、声を出しお礼を言った。本当助かった。

「大声で助け呼べばよかったんに…」
「呼ぼうとしたらハンカチ突っ込まれまして…」

彼はそう呟き、私はハンカチの件を話す。細かく喋ると私が泣く。恐すぎる。私はとりあえず防犯ブザーでも買ってこようかな、と思い考えていた。

「名前は?」
「へ?」
「名前や、名前」
「名字名前と言います」
「そか、途中まで送る。家どこや?」
「そ、そんないいですって…」

いきなりそうまくし立てられ、慌てている私を尻目に彼は私を引っ張り公園の街灯の元へ足を止めた。多分顔とかを確認するためだろうか。私はまさか会うとは思ってなかった彼に出会い、小さく悲鳴をあげてしまった。その声は彼にも聞こえていたようで振り向き、彼も鳩が豆鉄砲を喰らったようなそんな顔をしていた。声が似ているとは思ったけど、まさか。
彼はそのまま私を家にまで送ってくれた。礼を言わなければならなかったけど私は声が出なかった。

次の日私はいつも通りにバンドを見に行った。
ちゃんと彼に礼を言うつもりだった。先日はありがとうございました、助かりました、って。受け付けの人に聞いたところ今日は彼自身は来ないらしいが他のメンバーはいるらしかったので控室まで行って、彼の家の住所を聞くまではよかった。まさか彼の家がこの辺りでは有名な家だとわかっていなかったし…。
とりあえず怖じけづくな、と自身に言い聞かせ、私はチャイムを押した。ピンポンと割とかわいらしい音がして、誰かが走ってくる音がした。

「いつもありがとおな!で、いつ、いつ取れた?」

ぐわっと抱き着きながら、彼が現れた。想定通り過ぎて驚けない…多分バンド仲間と間違えているんだろう。とりあえず、仲間から聞いた予定を彼に伝えるとしよう。そうじゃないと離れない、と言っていたし。

「来週の日曜、再来週の土曜でライブが出来るそうですよ」
「ほんまか!ありがと…ん?柔らかいし、声高いし…?」
「金造さん、でしたっけ?」

気付くの遅いかと思う。

「おん。…ん?あ、こん前の子か!」
「名前、教えましたよね…。あと離れて下さい。重い…」
「いやや。柔らかくて気持ちええからまだまだ」

え、すぐ離れるって言ってましたよね。逆に抱きしめられてるんですけどあれ。

「金造さん?」
「なんや名前さん」


言葉は笑顔に飲み込まれた
(離れて下さい、重いって)
(だから嫌や)



111026

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -