(金造視点)
はぁっと溜息をつく。俺はいつものようにバンド仲間と一緒にライブをしていた。いつもいる客に一人違う子がいて少し驚いた。
「なんやろ、あれ」
周りはすごい活気があったのに、彼女だけは俺をじっと食い入るほど見つめていた。
「あ、金造も気になるんか?」 「あんな見つめられちゃ気にもなるやろ」 「せやな」
はは、と仲間同士で笑う。でも頭の片隅には彼女がいて、どうしてあそこにいてまで、…。
「ああっ、訳わからん!」 「考えすぎや、頭ないんやからやめときい」 「なっんやそれ!頭はあるわ!」
反論し、笑いが生まれる。そうだ、これが俺の休日の過ごしかただ。
「志摩さん、閉めるんで…」 「あ、わかったわ、いつもいつもありがとおな」
管理人さんに挨拶をして別れる。それが、いつも。でもやっぱり彼女の雰囲気が残っていて少しいらいらしていた。
「やめてくださいってば」 「ええやんか、少しくらい」
近くの公園で男女の声が聞こえる。ナンパか、いつもは無視して通り過ぎ近くの交番へ行くのだが、今日は考えることが多過ぎていらいらしていたからこそ、いつもと違う行動をしていた。
「何やっとんや、おっさん」 「おっさんやない、お兄さ、え」
ぴきり、と顔を強張らせおっさんは反発し、反応する。俺の金髪の髪が街灯に反射しきらきらと輝いているからこその反応だとは思うが、これまでとは。
「別にお前の女やないならいいやんか」
なんだこのおっさん引かないな…めんどくさい。
「私はあなたの女でもありませんが」 「…っ、な、」 「おっさんただのナンパやないなぁ…、女の子襲おうとしたんやろ?」
おっさんは固まり、小さな悲鳴を上げて走り去っていった。
「助かりました…、ありがとうございます」
標準語っぽく喋る彼女の声は震えていて、怖かったのかと思い知らされた。
「大声で助け呼べばよかったんに…」 「呼ぼうとしたらハンカチ突っ込まれまして…」
はは、と空笑いする彼女は辛そうに見えた。
「名前は?」 「へ?」 「名前や、名前」 「名字名前と言います」 「そか、途中まで送る。家どこや?」 「そ、そんないいですって…」
拒否する彼女を引っ張って、街灯の下へと連れていく。
「っ!」
彼女が、小さく悲鳴を上げ振り返ったら、そこには、あの彼女がいた。
見つめるだけで終わらせたいの だけど無理だった
111023
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