メフィストさんが電話に出た後私は電話をかけられなくなった。そこの世界にいないなんてわかられたくなかった。私はあの世界にいた、ということがいい。そうしたほうが私も燐も理事長さんも安心だろう。
プルル、と初期状態の呼び鈴がなる。着信は私の知り合いではなく電話番号が浮かび上がっていた。でも燐ではなさそうだ。ブチッ、と呼び鈴がきれ留守番電話サービスへ移る。
強いノイズ音とそれから薄く聞こえる燐の声。出たかったし、出られなかった彼からの電話。

『名前、どー…ん…また、…』
「っ!」

出ちゃいけなかったし、出られない。私にはそんな資格があるんだろうか。
どこの世界にもいないってことは多分私もわかっていたんだ。彼は彼の世界で生きていて、私は私の世界で生きている。それは紛れも無い真実だったし、事実でもあった。私はただ浮かれていただけなんだ、と気付き携帯の電源を切った。なんだか、ちょっと疲れてしまった。

「もう、終わりだよね」

私は番号の書いてあった紙を取り出し、光に照らす。薄く、親の字で『名前の…』と書いてあって、本当に有り得ないことだったのだと思い知らされた。紙を綺麗に破き、ハサミを使い何も読めなくなるくらいにして捨てた。

「有り得ないんだよ、有り得なかったんだよ」

なんで、気付かなかったんだろう。夢なのかな、夢なんだよね、ぎゅ、と頬を抓る。痛い。夢じゃないの?
電源が入っていないのに、私の呼び鈴は鳴っていた気がした。



111017

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