多分彼は私の名前も知らないだろうけど、大丈夫だろうと過信して私は紙を取り出し、ひとつひとつ打ち込んでいく。 プルル、と機械的な音が響き後で何か登録しようと決めていたところ、プチリ、と相手が電話を取ったのがわかった。
「も、もしもし?」 「はい、どうもー、貴方はどちらさま、いえ誰ですか?」
先日とは違う声。燐ではない。でも聞いたことはある。
「私は名字名前と言いますが…」
名前を名乗ると相手側はカチカチとキーボードを打っている音が聞こえた。
「貴方の名前はこの学園にも、私が知る限りの次元でもどこにもありません」 「え…」
いきなりなんだろうこの人。どういうことだろう。でもこの声は聞いたことある…どこで?
「め、メフィスト、さん…?」 「ご名答、といいたい所ですが、どうして私の名を?それも仮の名ではなくそちらの名前で。奥村君が何か言ってましたか?」 「いえ、何もいってません」
燐に被害はいけないと思い即答。でもなんでメフィストさんが燐の携帯を…?
「あの子の携帯料金言っておきますが私が支払っているんですよ…藤本神父に以前つけていたんですけどねぇ、一応ながら後見人なもので」 「…は、はぁ…」
確かに後見人だったよな、と思いながら相槌をうつ。
「で、そんな話はどうでもいいのです。貴方はどこの、どんな人なんですか、いや人でもないかもしれませんが、私の勘で人としておきましょう」 「…え、あの、どうしたら?」 「ならば一応、人かそうでないかを聞いておきましょう」 「人、です」
簡単な質問をいくつか聞かれ、メフィストさんの声色が変化した。
「どうやって、貴方はこの番号を…?」 「か、紙に書いてあったんです。箱の中に入っていた紙に…」 「ほぅ…、そうですか」 「はい」 「ならば一応調べておく義務もありますかね」
1、2、3…と言って(私には日本語にしか聞こえなかった。漫画は多分ドイツ語なのに不思議)、何かを発動したメフィストさんは何故か騒いでいた。
「…ど、どうしたことだ。私でも効かないなんて…これは…」 「め、メフィストさん?」 「後ほど調べたことを連絡します」
そういってプチリと電話が切れ、プー…、プー…と音が響いた。 調べなくても燐と喋れたり出来るなら問題ないし、別にいいんだけどな、と私は思っていた。
110930
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