気になって聞いてみたのだった。
「好きな人っているの?」と。私はまだいない。気付いていないだけ、とも言われるけれど私はまだいないと思う。秀吉も一緒だと思っていた。でも、あの寝言は…私にとって気になる言葉となった。
「秀吉、真っ赤だけど大丈夫か?」 「おぬしが変なことを聞いたからであろう…」 「聞いたか…?」 「聞いた!好いておる女子に好きな人おるかなんて変なことに……っ!すまん、今のは」
そういって、演劇で使ったままの衣装で走り出す秀吉。私はぐい、と衣装を掴み秀吉を止めた。
「な、何するのじゃ…」 「ほんと、可愛いよな。で、さっきのは何?ちゃんと言わないと出さない」
ぎり、と彼を見つめる。私だって意味はわかっている。ただ、彼からちゃんとした言葉を貰いたいだけだった。その一心だった。
「出さないて…、まあこの格好じゃあ出れぬか…」
下を見下ろし、女ものの衣装をつまみあげる。
「名前、着替えてからでいいか?さすがにこの格好じゃあしめしがつかぬ」 「いいよ、じゃ私も着替えるから絶対出るなよ」
互いに黙々と制服に着替える。いつもは聞こえないチャックを閉める音、ボタンを留める音がよく響く。
「終わったぞい」 「こっちも終わった。で、何あれは」
問い詰めるともじもじとし始めた秀吉。可愛い。
「――じゃ」
可愛いなあ、可愛いなあ。
「って名前聞いておるのか!」 「へ?」 「聞いてなかったのか!?」 「秀吉可愛いなあって…」
ありのままの言葉を出したら彼がため息をついた。 すっ、と息をすい私と一緒に出る予定だった劇のポーズをする。
「私と付き合ってくれませんか、お嬢さん」
腰を屈めて、手を私に向けて。言葉は決まっているのに。 私はそっ、と手をかけて顔を上げた彼に笑顔を見せた。
111215
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