ガラッと教室の扉が開く音で、授業が終わったのか、と私は実感した。
「お、主…?」
ああ、秀吉だったか。でも名前を呼べばすぐばれる。私は笑顔を浮かべ、木下君、と呼んだ。親しみは込めていない。ただの同級生として、だ。勿論彼は気付いていると思う。
「姉上と同じになるゆえ、名前でいいぞ、名字さん」 「そう秀吉君、よかった」
笑顔で接する。ああ、これだから秀吉は好きだ。…ん?好き、好きって友愛だろ、あれ…。
「とりあえず、名字さんこっちへ来てくれんかの」
ぐい、と引っ張られ力があったんだと彼を見る。彼は迷いもなく準備室へ。あれ、待って服が散乱してるはず。まあいいかわからないし。
「どういうことじゃ?」 「こういうことだよ、秀吉君」
くるり、と一回転。スカートが翻る。どう、可愛い?とでも聞いてやろうか。でも身長は秀吉より高い。女の子としてはちょっとまずいかな
「お主はいいのか?」 「いいの、別に。来るのが早かっただけよ」
やっぱり優しい。誰にでも優しい秀吉は私にも俺にも優しかった。でも今の私にはその優しさはつらいんだ。
「泣くな、わしがどうしたらいいかわからなくなるじゃろう」 「なら、止めろよ、秀吉君」
ああ、演技なんて知らない。ごっちゃごちゃだよ。意味わかんないよ。みんなに気付いて欲しいけど気付いて欲しくない。
「帰ろうかの、」 「……」 「名前、帰るぞ?」
そういって笑った彼は、私に手を差し延べた。
「部活、いいの?」 「テスト前じゃからな」 「そう。秀吉君、勉強教えようか?」
そう問うと、ふるふると首を横に振られた。
「自分の考えが纏まってから、教えてくれ」 「…わかった」 今の格好は女の子の制服。男ものは鞄の中。エクステも二重もなにもかも、彼にはわかってしまっていた。今まで騒いでいた女の子達は、私を見て黄色い声を上げなくなった。ちょっと悲しい。
「かっこいいから可愛くなったんじゃから当たり前じゃろう?」 「そんなこと言わないでってば」
顔に熱が集まる。有り得ない。 この私が…、この俺が、秀吉にきゅんなんて来たなんて。可愛いからじゃなくてかっこいいからで、なんて、そんな馬鹿な。 やめてほしい。いきなり言わないでよ。
「あ、部活は男役でひっそり出るから、秀吉の更衣室貸して」 「わしのじゃないぞ…。構わんが、」
そういって私たちは笑っていた。端から見ればただのカレカノに見えたくらいに。
111018
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