秀吉に慰めてもらい、いつもと違う俺を見られたと少し慌てたが秀吉はいつも通りでなんだか安心した。抱きしめてきたのにいつも通りなのは、なんだかちょっと気に食わないが。
次の日、俺は鉄人先生に呼び出された。多分先日のことだろう。
「理由、わかったぞ」 「なんですか?」
問い掛けると先生は重い溜息をつき、後悔しないか、と逆に質問された。別に後悔することはないので、しません、と答えたがその後の言葉は俺にとっての地獄でもあった。後悔なんて生温い。おかしいくらいに。「彼女がお前に取られた、らしい。別にお前が悪気がないのは知っている。だが、その格好では間違われても仕方ないだろう。だからさっき理事長へ言ってきた。お前、いや名字、女子制服を着ろ」 「先生、俺の似合わなさを知っててか?」
わなわなと口許が揺れる。女の格好で自分のクラスなんて戻れる訳がねぇ…。
「あぁ、知っていて、だ。一応男装は認証されていた。だからこそ自分のクラスではなくFクラスに行ってくれ。担任は―…」 「西村先生だろ、知ってる」
秀吉がよく嘆いていたから、それくらいは知ってるさ。 そうか、と西村先生は口許を緩める。笑うんだ、この人。
「今日は早退して、明日…いや、来週から女子制服で来るように」 「あ、先生、部活は…」 「顧問には報告済みだ。一応出ても言いそうだ、ちゃんと男役でな」
よかった、と力を抜いた。
「先生、ありがとうございました」 「一応生徒指導だからな、これぐらいは当然だ」俺、いや私は部室、いや部活の場に来ていた。一応早退届けは出したが、まだ実感が沸かなかった。俺は消え、私が生まれる、息を吸って、はいて、吸って、はいてを繰り返す。
「あー…」
意識して出していた低い声を地声近くまで戻す。そして短くしていた髪にエクステをつけはじめた。
「んー、声低くなっちゃったか…まあ仕方ない」
鏡があるので鏡を借り、少しにらめっこ。一重だとわかるので二重に。
「…しょうがない、よな」
手元にある女子の制服。先生が用意して渡してくれていた。 おもむろに着替え始めて、俺ではなく私を演じる。そう、私だ。 くるりと一回転をし、不自然がないかを確認。不自然しかないが仕方ない。
俺は私、私は私。
111018
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