叫んでる声がした。名前を呼ばれてる気もする。
「名前!名前!」
切羽詰まるような感じで私を揺らさないで、きついよ。
「れんぞー揺らすな…」
そう呟いたのは自分の声みたいじゃなくて、誰か他の人が喋っているように感じた。
「…誰や、お前」 「名前、廉造の従姉妹」
廉造は不信感を持って、私(仮)に近寄る。
「…ファーストキスの相手は?」 「両親以外だったら廉造」
なんで、答えてるの。違う。違うよ。私じゃないよ。質問の答えは多分あってるけど、私即答出来ないもの。
「…にせもん、ほんまの名前かえせや」
シャラン、と金属のアレが揺れる。私(仮)には怯えはなく、いつ来るのか楽しみにしているように見てとれた。
《やらないのか?志摩の一族のものよ》
声色が変わり、もう私ではない。私の皮を被った何かだ。
「名前を返せや。悪魔め」 《彼女が望んだこととしてもか?》 「そうや。俺は、名前と一緒に帰るんや」
そう。約束したもの。 一緒に帰ろうって。 昔のように一緒に。 何を隠してた、とかどうでもいいの。ただ、忘れて欲しくなかった。廉造の傍で一緒に笑い合いたかった。
《そうか。なら、離れてやろうかの》
にこり、と私(仮)は廉造に微笑んで、消えた。
「さよなら、」
そう呟いた私の声は、届いていただろうか。
「名前、あのな」 「かえろっか、学園へ」
私は彼の言葉を遮り、荷物をまとめる。
「ねぇ、廉造」
私は何かを掴み彼に見せる。
「これ、何?」
ふわふわと沢山ではないけど浮いてる黒いもの。
「悪魔や。それ」 「ふぅん。廉造も見えるんだ」
やってしまった、と思っている彼を見ながら私は笑った。
「廉造には、沢山見えてたんだ。私もこれから同じ景色が見れるね」 「反則や名前」
そう呟いた、彼は自身の髪色に染まっていた。
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