前はこんなに悪態なんてつくことはなかった。
私はものすごく静かで、親の言うことには素直に従っていた。それを見た廉造は、(前はほとんど喋ることはなかったけど廉造の名前は知っていた)「なんやあいつ」、と言っていたらしい。
個人的には、絶対に話したくない人だった。流されちゃいそうで、話したくなかったんだ。
本当に小さい頃は、親同士で仲が良く、いつも本家(私の家は志摩家の中の分家)のほうに遊んでいた。柔造兄ちゃんや金ちゃんともよく話しをしていて、「お前は廉造とは大違いや」と言われていた。
その本人は座主の勝呂家や三輪家の息子とよく周りを走り回っていて、柔造兄ちゃんとかに迷惑をかけていたらしい。
そんな廉造と会ったことを覚えているのは小学生に上がった頃であった。幼稚園も目立つ訳がなく、少しずつ成長していって大人に手をかけることなく、幼稚園を卒業していった。
私の記憶によると、坊、と呼ばれる勝呂君はすごく正義感が強く、いつもみんなを引っ張っていてさながら王様みたいだった。それによくついていた廉造や子猫丸は家来のようで、私はひそかに笑っていたのを記憶している。
初めて(しっかり)喋ったのは、このお盆のときだった。

「名前ちゃんやろ?仲良うしてなぁ」

にへら、と笑うその顔は私が今まで見てきた笑顔とは違い、ただ単に仲良くして、という意味に見て取れた。いつも、大人達のしっかりした顔しか見てこなかった私にとって、その笑顔は驚くものだった。

「なんで、仲良うしたいん?」
「友達多いほうが楽しいやろ!坊とかいるけど、たまにめんどうなるんや…。だからな、俺、名前ちゃんと仲良うなりたい!」

私にとってそれは告白みたいなもので、言葉を発することが出来なかった。でも返事をしなきゃいけないような気がして首を縦に振り、肯定した。
廉造は、目を丸くしたあとまたあの笑顔を向けてぎゅっと手を握った。大人達より体温も高く、それほど大きくない手の平だなあ、と考えてしまって少し恥ずかしくなって俯いた。
ことん、と誰にもわからないところで何かが落ちる音がした。
それからの私は本家に行くのを嫌がり(気付かれたくないから)、いつも分家のほうで一人本を読んでいた。

「名前、お前宛に手紙」

そういって父は私に手紙を差し出した。ピリリ、と封を開け中を見る。

【名前ちゃんへ】

廉造からの手紙だった。


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