ふわあ、と欠伸をし、携帯が充電器に刺さっていることを確認した俺は眼鏡を外し、寝ようとしていたのだが、それを邪魔するかのように電話が鳴った。タダクニやヨシタケだったら明日学校で文句を言ってやろうかと思っていたが、もしもし、と聞こえた声は男が出した裏声ではなく普通の女の子の声がした。 …今俺の携帯に女の子のアドレスはあるか? 答えはいえす。ちなみにこれくらいの年齢だと1つくらいだ。(親戚等も入れてだが)
「ヒデノリくん、いや眼鏡くんよ。聞こえてるかい?」
名前を言ったなら、そのまま名前を呼んでくれればいいのに。ちくしょう。
「どうしたミカリン」
俺は偽名ながらも彼女の名前を呼んだ。
「あーよかったあってたか!でさ聞きたいことあるんだけど、今時間大丈夫?」
偽名なのは突っ込まないのか。まあアドレスも偽名で登録してあったし…ちなみに送り仮名は名字だったので、問題ありまくりだがあまり問題はない。 時間、と携帯を離し右上に小さく表示される時間を見ると問題はなく、俺は大丈夫だ、と答えた。
「よかった、よかった。じゃあ聞きたいこと1つ目ね。ヒデノリくんって彼女いたりするかい?」
そんなことか、と俺は思った。
「いないよ。むしろ男子高で全く出会いもないから出来る方がおかしいって」
まあ男子高でも出来る奴は出来るらしいが、まあ残念なことに俺に彼女なんてかわいらしいものはいませんよー。
「あ、そっか。男子高だもんね。…ゃん…」 「最後なんか言ったか?」 「いや何も?でさ、本題聞いていい?」
本題?、ああじゃあ彼女いますかーの下りは本題じゃなかったと。なら先に本題言えよ!副題で少しテンション落ちただろ!!…彼女欲しーな…。
「ほら、君の知ってる私の友達いるじゃない?」 「サオリン?」 「いや、サオリンも君が知ってる私の友達なんだけれど、ほら、猫目、黒髪、ロングストレートの」
…猫目、黒髪、ロングストレート…?…ああ河原のあの文学少女のことか…?
「タダクニぶん殴った文学少女のことか?」 「え、あの子ぶん殴ったの…謝りに行かせなきゃ」 「お前は母親か」
タダクニぶん殴られたからあの子のこと怖がってるんだよなあ…。まあ俺も怖いけれど。何しでかすかわからないし。
「まあそれは後ほど本人に聞くからいいとして…。このまえその子が笑ってしまったって悔やんでたんだけど何かあったの?」
笑って、しまった…? ああ、あれか。あったな、あれ。
「話すと長くなるけど」 「あ、大丈夫。髪乾かしながらだし。自然乾燥万歳」
……風呂上がりかあああ!! ちくしょう!! うわあ、ミカリンの風呂上がりとか………うん、問題ない。 ミカリン外見が可愛いのに中身が…だし。 黙っていればかわいいという言葉がここまでしっくりくる人は初めて見た。
「じゃさ、ヒデノリくん。その日何があったか教えてくれないかな?」
俺はその日あったことをぽつり、ぽつりと思い出しながら彼女に話したのだった。
120312
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