今現在このことに関して後悔するかと問われれば後悔はしているが、それが彼女の本心だっなならば俺は後悔しないと思う。 彼女は、以前アークデーモンと並ぶあれだったんだよ、と苦笑いを浮かべた。俺はあまり理解は出来なかったが、そうか、と頷く。
「でもさ、女の子。ってなってから私に対して批判?みたいなのが起きたんだよね。いやまあ暴力なんてなんのその。女の子も陰でこそこそやっていたし。私はそれが嫌でね。あの場所から遠くに逃げるようにこっちに来たの。逃げてきたんだ」
苦笑いを浮かべ、呟く彼女はすごく悲しそうな顔をした。
「逃げちゃいけないんだけどさ。それ以来あの場所に帰りたくなくなったの。でも帰らなきゃ親が心配するじゃない?だから門限が決められてさ。それより遅れると叩かれるの。バチンって」
ほら、と彼女は腕を見せる。赤い跡として何かが残っていた。ひどい、と思った。だけどそれを彼女は普通だと思っていた。それは普通ではないというのに、普通だと。
「でさ、そのことを隠す必要があるじゃない?だから私は高校デビューなんてしちゃってさ。名前を自分で偽名に変えて。この町で私、という…。ううん。名字名前を知られないようにしたの。まあもうばれちゃったけどね。それ以来、暴力してきたからこそ男の子は苦手だし、こそこそと陰口を言ってた女の子も苦手なの。でもさ、」
彼女は俺を見て素直に微笑む。これが彼女の素顔なのだろうか。かわいい、ではなくて今は綺麗、という表現が似合う。
「ヒデノリくんとかの馬鹿な行動を友達から聞いてさ。最初は有り得ない。そんな馬鹿みたいな台詞いう男の子いる訳ないじゃないって思ったの」 「俺全否定じゃねぇか」 「あ、いやごめん。違う、違う」
彼女は少し慌てた顔をして両手を自身の顔の前で振った。
「でさ、実際ここに来たら本当にいるし。試してみたら友達が言ってたみたいに本当に変な台詞いうし。私の中で男の子の価値観が少し変わったんだよ」
また笑う。本当、笑顔が似合う奴だ。もっと笑えばいいのに、この不安が取り除かれるくらいにもっと、もっと。
「だからさ、まあもう吹っ切れたの。諦めた、っていう方が正しいかもしれないけどさ。来年受験だし、将来一人暮らししちゃえばあの場所からもさよなら出来るし。だからもう、いいんだ。ヒデノリくん、つまんない話聞かせてごめんね」 「いや、大丈夫。もう平気なんだな」 「うん」
少し変わった、と俺は思った。 最初俺の前に現れた彼女は変な奴だと思ったし、文化祭時には女の子らしいところを見せられるし、今は本音を語ってくれるまでになった。変化してるじゃねぇか。
「名前、」 「ヒデノリくん?」
名前を呼び、抱き寄せる。 緊張する。手が震える。 でも、彼女が不安そうな顔をしてたから、手が伸びてしまった。
「大丈夫だよ、もう。ありがと」
数分経った後彼女は俺に向かって呟いた。その声を聞いて、そっと手を離す。
「ヒデノリくん、タダクニくんとかいると思うんだけど。ほら、あそこ」
指差す方向を見ると赤くなり、少し眉間にシワが寄っている友人二人の姿。やっちまった。 いつか殺られる気がするわ。
「ヒデノリくん、あの二人のとこいこっか」
彼女の笑い声を聞き、もうどうにでもなれとなった俺は奴らの元へ向かっていったのだった。
120218
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