まさか一緒に入るとは思わなかった。ミカリン(偽名)がちゃんと名字を呼ぶということはそれほど必死なお願いだったということだろう。
「あ、そうだ。名前聞いてなかったな。偽名じゃないほうな、なんていうんだ」 「名字、名前どっち?」 「フルネームで頼む」 「名字名前だ…、唐沢くんよ、それ聞いてどうするんだい」 「…何もないな、じゃあ入るぞ」
割と並んでいたらしく(目玉みたいなものだからか)、少し話すことできた。名前覚えておこう。
「唐沢くんよ、腕掴むぞ」 「ああ」
ぎゅ、と腕が胸の谷間に挟まる。おい、これはさすがにまずいだろう。周り的な意味で、いや1番最初が確かヨシタケなのは知っている。そしてヨシタケは多分いない。怨まれないことを祈ろう。
「唐沢くんよ、歩を進めるぞ」 「ああ」
シャッ、とカーテンが開き中が見える。椅子に座っていたであろうヨシタケの姿は見えない。そりゃそうだ。最初受付にいるからいる訳がない。
「……っ!」
ころり、と音がしたと思うと彼女はまた俺の腕を抱きしめる。そして顔を埋められた。……うん、俺恨まれる。遠くから視線感じるし。
「大丈夫か?次行くぞ」 「だいじょぶさ、おっけーみかりんにまかせなさいな」 「大丈夫じゃないな…」
早く進めるべきかと思い次の場所へ。
「ああ、いらっしゃい。すみません、まだここ…って唐沢とミカリン!え、なんで唐沢の腕にミカリン抱き着いてんの」 「唐沢くん、眼鏡くんがいるんだよね」 「ああ」 「目、開けて平気?」 「やめておけ、泣くと思う」 「そっか。ごめん、眼鏡くん普通に話したかったけどお化け屋敷出たらちゃんと話そっか。唐沢くん、次行こっか」
…ああ、ヒデノリに知られた。終わったな、色々と。視線が痛い。
「名字、」 「何?」 「怖いんだろう?」 「…うん」 「俺今逃げなきゃまずそうだけど置いてかれても外出れるか?」 「無理」 「なら、背負うしかないな。背中に乗れ、安心しろ今はまだ出てきてない」 「わかった」
ゆっくりと俺の腕から顔を離す彼女。少し目は潤んでいた。苦手なら来なきゃいいものの。
「ほら、乗れ」
腰を下ろし、背中に乗せやすくした。彼女は少し躊躇いながら俺の背中に手を回した。
「走るからな、顔背中につけとけ」 「わかった」
次のカーテンを開くと知り合い。次のカーテンを開いても知り合い。そして後ろや前から知り合いが襲ってくる。
「唐沢ー、どういことだ!なんでお前が女の子なんかと」 「持ち場戻れ、次女子高校生の二人だ」
なんて嘘をつきながら、最後のところへ。確か会長がいたはず。
「あれ」
落ちていたのは会長が着るはずだったもの。会長はどうしたんだろうか。まあ、いいか。
「名字、出口まで来たぞ」 「唐沢くん、ありがと!あー怖かった…」 「俺はこれからが怖いがな」
出口付近で彼女を背中から下ろし、俺は彼女とアドレスを交換して走って体育館へと向かったのだった。
お化け屋敷と彼女
(アドレス交換してしまった…男の子初めてだ。多分) (いつヒデノリとかがクラスの連中にいうか気が気じゃないな…)
120209 異常のほうで可哀相だったので、唐沢さんにいい思いをさせました。 ちなみにふるぼっこの刑ですね。 |