週末の日曜にいつも来てくれるミツオくんは看護師さんの中の噂では、私の彼氏らしい。正しくはお見舞い常連さんというだけなのだが。…でもまだ友達とは言えない。こんな私となんかはおこがましい。
「名前!また来たぞ」
にっと笑みを見せ、少し黒くなった肌を見る。
「顔、焼けたね」 「そうか?」
自分の腕を自分の顔まで持っていって、私が普段使ってる鏡を見ているミツオくんはなんだかおかしい。私が使いやすいように、とおいてある鏡だから彼としては低いはずなのに所謂中腰姿勢というきつそうな体制を保ったまま、鏡をじっと見つめて首を傾げた。なんだか女らしいなあ、と思ったけれど、以前遠回しに言ったら拗ねられたので言わないことにする。
「何笑ってんだよ、」 「笑ってる?」 「ん?お、おう、なんというか微笑んでる!」 「ミツオくん、それ褒めて…るんだよね…」 「なんだよその反応!?」
二人で顔を見せ合ってまた笑った。私がちゃんとした笑顔を浮かべられるのはこの日曜日だけ。だから笑えるときに笑っておくの。看護師さんも、それを知ってか、ミツオくんがいるときは用事(検温)くらいしか病室に来ない。 とても嬉しい。いつもは看護師さんとお話してるけれど、学生の男の子と話すのは初めてで、話を聞いて笑い合うくらいしか出来ないけれど。
「なあ名前、」 「何?」 「お前いくつなの?」 「女性に年齢聞くの?さいてーだよミツオくん…っ」 「泣き真似するなよ、肩震えてるぞー」 「ちぇ、17か8だった気がするよ」 「…気がする…?」 「そ。ずっと病院にいるからね。日付感覚がずれちゃって。カレンダーはあるけどさ」
ミツオくんはそっか、と呟いて下を向いた。変なことを言っただろうか。
「あ、」 「どうした?」
ミツオくんを見て思い出した。
「私ね、日付感覚はわかんないんだけど、週感覚はわかるんだ。毎週日曜だけだけど。なんだかそわそわするの。その日だけ」 「……お前、……だよ」 「…何?」 「なんでもないから。…つーことは名前は俺と話すのを楽しみにしてるってことか」 「そうだね、そうなるね。ミツオくんの話楽しくて好きだし…」 「お、おう…」
少しそっぽを向いたミツオくんの耳は少し赤くて、夕焼けがうつったのかなあと思ったけれど時間的に14時だから有り得ないやと思い直した。
「ミツオくん、この一週間で楽しかった、楽しくなかった、なんでもいいから私に教えてくれない?」 「楽しい話しかしてないはずなんだけど…まあ、いっか。じゃあなー…」
んー、と考えているミツオくんを見ながら今回はどんなドジをミツオくんはしたのだろうかと考えたのだった。
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