『ねぇ名前ちゃん』
嘘つきの先輩が私に笑いかける。その笑い方も仮面のようで信用出来ないけれど。
「なんですか、球磨川先輩」
にこやかな笑顔を私も貼り付けながら先輩に返す。結局は二人して嘘つきの仮面を付けている、ということであるけれど、所謂めだかちゃんと善吉くんみたいな関係を嘘で塗り固めたものである。
うん、意味がわからない。
『いや、ね。僕は名前ちゃんが好きなんだけどね』
「さらりと告白しましたね、先輩。嘘はついちゃだめですよー」
『いやいや嘘じゃないさ。僕はいつも名前ちゃんの裸エプロンや手ブラジーンズを想像しているんだぜ?』
「先輩、それを妄想というんですよ」
笑いながら先輩をたたく。どうせ痛くもかゆくもない打撃だ。むしろ先輩はたたいた、ということを"なかったこと"にするのかもしれない。先輩は不思議だから。不思議、で片付けていいものかすらわからないけれど、私からしたら不思議だ。だって切り刻まれていた制服が何事かもなかったかのようかに戻る。これを不思議と言わずしてなんというのだろうか。
『まだ名前ちゃんは信じてくれないんだね』
「何がです?」
少し顔を俯かせていて、表情が見えない。先輩は何か企んでいる、としか思えない。
『だって僕が君のことが好きだって何回言っても信用してくれないじゃないか』
「信用しませんよ、だって先輩大嘘つきじゃないですか。好きだっていうなら私を幸せのどん底まで落としてくださいよ」
幸せのどん底というのは、球磨川先輩にすごく合っている言葉だとは思うけれど、どうだろうか。最低辺にいる、と自負している球磨川先輩。ならば、どん底というのは最低辺としては納得出来るのではないだろうか。まあそれは球磨川先輩に聞かないとわからないけれど。
『僕がどれだけ好きだって言っても信用してくれないなら仕方ない。僕が名前ちゃんを幸せのどん底に突き落としてあげるよ』
「楽しみに待ってますよ」
愛情には一つの法則しかない。愛する人を幸せにすることだ。
それを言ったのは誰だったのか、私は覚えていないけれどその法則に基づくとしたら私は先輩から愛情をもらっていると考えてもいいのかもしれないな、なんて考えていたのだった。
130101
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いまむかし、に提出。