もじ | ナノ
今日、謝ろうと思ったのですが、水町くんは私のことが苦手なようでして、私が近づくと避けていくのです。

「筧くん、今日水町くん呼び出しても平気?」
「ああ、部活のことか?長引かなければ、大丈夫だ」

昼休み、筧くんに了承を得て、とりあえず大丈夫だ。あとは、小判鮫先輩に言っておいて、そうすれば水町くんも話を聞いてくれるだろう。

「……先輩には伝えておこう」
「え、いいの?」

ぐい、と私の頭に手を置きぐしゃりと撫で回す。身長高い奴め。セットするのも大変なんです!

「そんなに震えてたら先輩と話なんか出来ないだろ?」

そういって足元を指差す筧くん。私、足震えてた…?

「ついでに、今日の放課後水町を教室に呼び止めておく」

筧様、としか呼べないです。泣きたくなってきますね。でも髪をぐしゃぐしゃにはしないで欲しいのですが。

「手間かかる奴だ、全く」

そうぽつりと呟かれた言葉は私には届かなかった。




そして、時は過ぎ放課後。
水町くんは既に自分の教室にいる、ということだ。

「失礼、します」

言葉なんてかけなくていいけれど、ついかけてしまう。困ったものだ。

「何、何か用なの?」水町くんは怒っている。わかってる。それは私たちのせいみたいなものだから。裏切らなければ、水町くんは怒らなかったのに。

「用ないなら、俺部活行くよ、筧待たせちゃ怖いし」

筧くんにも手伝ってもらったのに、私意気地無しだ。でも、もう最後かもしれない。これから水町くんはどんどんアメフトで強くなっていくだろうし、放課後に時間をさけない。当たり前だ。だから、勇気を出さなきゃ。

「…っ、まって、水町くん」

扉に手をかけまさしく出ようとしたときに声をかけた。ぎりぎりセーフ。

「何?」
「…っ、ご、ごめんなさい!私、じゃなくて、私たちは水町くんにひどいことしたけど、それでも…っ、私は水町くんと話がしたかったの。先輩たちがひどいことしてたの見てた。水町くんが毎日毎日努力してたの見てた。私、私、それなのに…」

涙が出てきた。嫌だな、嫌われちゃう。

「そんなこと、だったのか?」

ぽつりと水町くんは呟いて、膝を曲げた。身長差が少し悲しい。

「な、泣くなよ、俺どうしたらいいかわかんないじゃんかよ…!」
「うっ、ごめ、ごめんなさっ」

涙は止まらず流れていく、泣き止まなきゃって思うけど止まらない。ムードメーカーでもある水町くんを困らせてしまう。

「……名前?」
「う?」
「顔、上げて」

水町くんの言った通りに顔を上げると近くに水町くんの顔があって、びっくりして、え。

「俺な、水泳は楽しかったんだ。だからな謝られるってなんか変な感じなんだよ。でもさ、それのお陰で俺はアメフトと知り合えたんだよ、だから謝るな、な?」

声に出せなくてこくりと頷く。

水町くんは私の顔を見て、笑顔を浮かべいつも通りに部活に行ってくる、と言っていたのだった。


次の日、私は筧くんに感謝を込めてクッキーを焼いてきた。食べてくれる、かな。

「筧くん、」
「……ああ、出来たのか?」
「うん。出来た。ありがとう。これ、お礼。いらなかったら誰かにあげてね」

とさ、とクッキーを筧くんの手の平に乗せる。手、おっきい。

「ありがとな、部活終わったら食べるよ」
「こっちが感謝いいたいくらいだよ、部活、頑張ってね」


謝ったって、


(筧ー、それ何?)
(ああ、クッキー貰ったんだ)

(ずっりー!俺にくれよ!)
(名字に頼めよ、それ)
(うっそ、名字に貰ったのか)



111225
あいしーるど21!


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