「はよ虎屋へ逃げえ!」
愛しい彼が叫んだ。周りの人はこほん、ごほんと咳をしている。おそらく風邪ではない何かなんだろう。咳をしている人達はきょとんとした顔をしながらぞろぞろと虎屋へと向かって行く。
「おまえも早く逃げい!」
がしり、と肩を捕まれ声を出される。私は肩を捕まれた手をとり、彼の顔を見る。息をあらあげ、汗をかいている。
「金造、大丈夫。私、みんながいなくなったら入る。だって私丈夫だし、ね?」
そういうと彼は、息をもっとあらあげ、ぐいぐいと虎屋のほうへ私を押し込んで行く。
「き、金造!いいから、いいから、ね?」
「だめや。お前が安全なところにいないと思うと俺が嫌や」
「なら、さ。金造の家にいる。それならいい?」
金造の家も家で、いい場所である。私の隣の家だから、楽に行き来できるのもとてもいい。
金造はむう、と頬を膨らませ(ちょっとかわいい)、それならいい、と小さな声で呟いた。
「金造の部屋に篭ってるから、ね?」
「おん、」
そういって私は金造の家へ向かい、縁側を通り金造の部屋へとこっそり入る。ふわり、と金造の匂いがして少し涙が出てきた。
見くびらないで、と彼女は嘆く
私はあなたの役に立ちたい、だなんて言えなかった。
私はただ普通の女の子なんだから。
111229
志摩家の隣人さんになり隊。
むしろ金造ときゃっきゃしたい