もじ | ナノ
誰が決めたというのだろうか。
物語という物語は全て「めでたしめでたし」で終わらせたことを。
でも人魚姫、ロミオとジュリエット、とかは絶対に「めでたし」では終わらないのに。
誰が決めたのだろうか。
可笑しい、のではないのだろうか。
私が可笑しいのだろうか。
いや違うのだろう。
幼い頃から色々な童話は読んでいた。あのときはわからなかったけど…多分。
「ヒロインはそれが幸せだったから幸せだったのではなかろうか」と。
だから、いいのだろう。幸せなら、別に。
私は、考えることをやめよう。
色々な童話を借りても、なんだか嫌だ。読みたくない。
嗚呼、私はなんて悲しい女の子なんでしょうか。
ちゃんとした恋をせず、そのまま死んでしまうなんて。
涙はでない。そんなものはとっくのとおに枯れてしまった。

「ギルベルト…」

愛しい彼の名を誰にも聞かれないぐらい小さくに呟く。
でも、もう私のもとへ来てくれないだろう。
だって私は彼を裏切ったのだから。
そよそよと、風が吹いた。私は今、屋上にいる。

+++

彼は私を助けてくれた人だった。
まるで何処かの王子様のように。
それは最初の頃だけで、後に彼は赤い瞳で私を捉え、檻に入れ…最悪な言葉をさんざん吐いて。
嫌だったはず、なのに。
私は彼のことが好きだったから。
我慢して、我慢して。
歯がカチン、と当たるキスも、私を欲していたならば、心を許し…そうしたらどんどん奈落の闇へ落ちていっただけ。
彼はいつの日かこんなことをいった。

「ったく、名前は監禁されるのが好きなのかよ」
「そんなわけない」
「嘘を付くなよ」

嘘を付いているつもりは毛頭ないのだ。
だけど、彼はわかっているのだ。私の気持ちを。

「…名前、いいかげん言ってくれよ」
「何を?」
「好きだって、この俺様のことが好きだって言ってくれよ」

好きだ、と声を張り上げていいたかった。
本当の声で。女の子らしい可愛らしい声で。でもいえなかったの。
声が出せない女の子、なんてなんとまぁ醜いのかしら。
声が出せるならなんでもいいのに。なんで、なんで、私の声は機械音なの。
せめて、彼と話すときぐらい本当の声を出したいのに。

「こんな声で好きといわれてもうれしくないでしょう」
「………そんなことはない」

わかっている、わかっているのよ。
貴方が違う女の子を好き、ということもわかっているの。
でも、あなたは本当の私を見ていないから。
嗚呼、貴方が私"だけ"を好きになったらいいのに。
それで、私たちの関係は終わった。

別れた日から月日は移り変わり秋になった。

「…あなたが名字ね。ふぅん、そっかあ。」

何処かから嫌な声がした。
嗚呼、あいつだ。私から彼、ギルベルトをとった張本人。
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い。消えろ、消えろ。
私が願っていることを彼女は知らないのだろうか。
嗚呼、知っているなら話は早い。
私が彼女を殺して、声を奪えば、そうしたら彼はまた…私の元へ戻ってきてくれるのだろうか。
嗚呼、憎い、憎い、憎い、憎い。
そんな彼女は私にはもっていない沢山のいいところを持っていた。
私はそれが羨ましくもあり、妬ましくもあった。

「おい、何やってんだ!」

赤い瞳の彼がやってきた。私は最近彼に会っていないのだ。
嗚呼、頬が赤くなっていないだろうか。

「あっ、ごめん!ギルベルトー、こんな奴なんてほっといて早く私と帰ろうよー」
「…こんな奴ってなんだよ。お前が嵌めたくせに」

声が出せない。意識的、ではない、本当に声が出せなくなった。

「……す、すみませんでした」

私は声を搾り出して、謝った。そして、逃げた。

「あっ、ちょっ、待て、名前!!」

彼の悲痛な声は私の耳には届かなかった。
だから、気づかなかったのだ。彼がしたことなんて。


そして、私は冒頭にあるように逃げて屋上へ向かったのだ。
愛しの彼の名前を呼び、カシャン、と緑色のフェンスに乗りかかる。
嗚呼、風が気持ちいい。

「…もうやだ、な」

ポケットから緑色の小瓶を出す。一時的に声を取り戻す薬。
コクン。
私はその液体を飲みほした。
この声を彼に聞かせたかったのに。
でもその彼はここにはいない。

「あー、あ………大好きだったぞー、バカベルトォォ!!!」
「バカベルトってなんだよ、バカベルトって」

ハァハァと、息切れをしていた彼。

「ひうぁっ!な、なんでここにいんのよ、バ、ギルベルト」
「…バカベルトって言おうとしたろ?」
「な、なわけ」

もう彼にはばれているのだ。私が彼に敵うはずもないのだ。

「…あ、そうそう、俺もな。好きだぜ、こんちくしょーっ!」
「…こんちくしょーってなんだ!バカベルト」

そんな、私は知らないのだ。
彼の手のひらには赤い血がついていたことを。
そんなことを知るはずもないまま、私たちは幸せの中につつまれた。


物語の終わりはいつだって「めでたしめでたし」
(…声、戻ったんだな)(え?)

090824
「Romeo and Cinderella様」へ提出させて頂きました。
後悔はしてません。なんというか、主人公がヤンデレです。何故だ。
基本は人魚姫を忠実にしつつも現代です。…これ、御伽話、なのか?そして、全く名字を使っていない。ごめんなさい。
お題元:TarotLamp



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