もじ | ナノ
手を伸ばした。その手は虚空を掴み、何もないところを引き止めた。

「何やってんやろな、俺は」

自宅の縁側に座り込み俺は一人ごちた。そんなことをしても彼女は帰ってこない。わかっているからこそ、手が伸びる。

「まあやっとんのか…」
「柔兄…」

溜息をつきながら俺の隣に座り込む。

「お前のせいやない」

そういって俺の頭をぽんと叩いた。そして同じように虚空を見上げた。柔兄の許婚だった彼女を奪った俺を憎まないはずはなかった。
――…彼女は悪魔にやられてしまった。チームワークなんてない俺のせいでやられてしまった。それを思い出すと柔兄にも誰にも顔を見せられなかった。それが三ヶ月前のこと。奪ったのは四ヶ月前。約一ヶ月間俺は彼女を幸せにしてあげたのだろうか、どうなのかすらわからない。

「幸せだったやろ、勿論」

ほら、と俺の真後ろにある和室を指しその中に微笑む写真の彼女。

「あの写真、お前と話してたときの写真や…、俺にはあんな顔見せんかった」

そういって、柔兄は立ち上がり線香をあげにいった。俺にはまだ彼女が生きているとしか思えなくて、どうしようもなくて、まだ何も出来ないでいた。
虚空を見上げ、手を伸ばす。何も掴めない。傍にあった温もりもない。
俺は静かに涙を流した。


手に入らないのなら

奪ったくせに何も出来なかった自分が歯痒かった。


111202
切ない感じで。
金造さんのキャラ迷子ですみません

企画参加させていただき有難うございました


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