すぅ、と息を吸ってはく。もう一回。朝からの恒例行事みたいなものだ。
吸って、はいて。吸って、はいて。
窓は開けたり開けなかったりしているけれど最近は開けていたりする。
ほら、来た。
私が窓を開けているのは、毎朝走る姿を見かけてからだった。学校は一応同じなのに全く話しかけたことがない勝呂くん。端から見るとただ怖そうな人にしか見えないけれど、知らない所で努力してる努力家だった。私はその姿を毎朝見てから、学校の準備をしだす。それが、日課。
「おはよう、」
友人に声をかけ、椅子へ腰掛ける。
「朴、おはよう!」
「出雲ちゃんおはよう」
「ピンク頭に何にもされてないわよね!」
朝から朴さんに詰めかける心配性な出雲さん。そんな毎日の光景。ああ、楽しいな。学校って面白い。
「出雲ちゃん、…」
盗み聞きは悪いよな、そう思って私は机に突っ伏す。いい椅子と机。さすが私立。恐ろしい。
「なあなあ、」
顔をあげると垂れ目でピンク頭がいた。誰。
「志摩廉造いいます、よろしゅう」
「は、はあ、よろしく」
それが勝呂くんの知り合いである志摩くんだと気づくのはお昼休みのときだった。
「いただきます」
そういって黙々と食べはじめる。おいしい。
「坊、いましたわ」
「どこにや」
「あそこですえ」
外から志摩くんらしき声が聞こえ、外を見る。志摩くんは私のほうを指差しているのが見えた。きのせいだろう。
「ほんまや…あいつや…」
そう勝呂くんが呟いていたのは聞いていなかった。
放課後になり、私は荷物をまとめ帰り支度をしていた。
「な、なあ…」
声をかけられ、私じゃないかと思って周りを見る。誰もいない。
「お前や、お前」
「…私ですか?」
勝呂くんが私を呼んでいた。なんだろうか、怒られるんだろうか。いや何もしてない。
「お前、よく俺が走っとるの見とるやろ」
「…」
「無言は肯定と見なすで」
「…」
なんだ、怖い、怖いぞ。殴られる?怒られる?
「あー、そな怯えんでも…。まあ俺が言いたいのは一つや。一緒に走らんか?」
「え、」
まさかの、走るお誘い。びっくりだよ私。
「嫌なら別に構わへん。でも、一緒に、走りたいんや」
少し顔を染め言った勝呂くんは怖さなんてどこにもなく、ただ可愛さがあった。
「私でいいなら、いいけど」
「なら、お前の家まで迎えに行くわ」
「なんで、家知って…」
「あんな目線すぐ気付くわ」
気付かれてたとは不覚。
「一緒に帰ろか」
「えっ」
夏のにおいがする
すっきりとした朝は、彼と一緒に迎える。
111022
企画提出。
勝呂くん初めて…。